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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

日本農業新聞賞

ミニトマト

久留米市  福岡教育大学附属久留米中学校1年熊谷 優志

 「大きくなってね。」

毎年、僕は、自宅の小さな畑の小さな植木鉢に、小さな種を植える。ミニトマトやピーマン、パセリやほうれん草などの種だ。何の種を植えるかは、その年の気分で決まる。しかし、作物が元気に育つように、同じ作物を二年連続で作らないようには気をつけている。昨年の夏は、ミニトマトを植えた。そう、あの年も。

二〇一二年の夏のことだ。その年は、初めてミニトマトを植えた。

「大きくなるといいね。」

そう言って、妹と植えたのを覚えている。そして毎日、朝と夕方に水をやり、出かけるときは、声をかけた。そして小さな芽が出て、どんどん成長し、小さな花が咲いた。そして、まだ青い実がたくさんついた。その実は、セミの声が響く小さな畑で、熱い熱い太陽に照らされて、毎日毎日少しずつ、僕の肌と一緒に赤くなっていった。そんなミニトマトを見つめるだけで、期待と喜びを感じられた。しかし、それは束の間だった。

「ゴォー」その音で目が覚めた。猛獣がうなっているような音だった。窓の外を見ると、見たこともないような雨が地面をたたきつけていた。でも、家の中にいた僕は、ただの大雨だと思って、何も考えないまま、その日を過ごした。

 何日かすると雨は止み、静かになった。強い日光がギラギラと照りつけている。窓の外を見ると、辺り一面が水たまりだ。そしてふと、畑の方へ目をやった。草木はなぎ倒され、どろ水につかっている。急にミニトマトが頭にうかんだ。考えるより先に、畑に行った。悲惨な状態だった。僕が植えたミニトマトも、まだ少し青いのに、大量に地面に落ちていた。茎は折れていた。真夏の風が冷たかった。しかし僕はまだそのとき、真っ赤なミニトマトがたった一つなっていることに気がつかなかった。僕は、その苗をあきらめ、新しい苗を植えようと思い、今までずっと育ててきた苗を抜いた。そして新しい苗を植えた。

 次の日、新しい苗は、実がなっている状態から育て始めたので、実がもう熟れていた。しかし、虫や鳥が食べてしまっていた。虫や鳥も生きていくためにトマトを食べたということは理解できる。でも、とてもつらかった。絶望し、うつむいて歩いていると、足もとでさびしそうに転がっている、先日抜いた苗の枝に、真っ赤なトマトがなっていることに気がついた。一瞬目を疑った。でも、そのミニトマトをつみとって、家に帰った。一人で食べたかったが、今年の、最初で最後のミニトマトだったから、家族で分けることにした。ミニトマトを家族六人で分けたら、一人分は豆つぶほどの大きさになった。でも、とても甘くて、濃い味がした。

 そして、あの九州北部豪雨から四年がたった昨年の夏も、ミニトマトを植えた。今回はたくさんなった。でも、四年前のミニトマトの味は、口の中に残っている気がする。自分で野菜を作ってから、野菜が好きになった。ミニトマトは特に好きだ。

 自分で作って好きになった野菜はもう一つある。それはジャガイモだ。これは、田舎の親戚の家で作った。毎年、広い畑でたくさん植えて、たくさん収穫する。いろいろな形があっておもしろい。それぞれ不思議な形だ。ときには、収穫中にカエルやミミズなどが出てくることもある。でも、今はもう驚かない。きっと慣れたのだろう。そして、毎年の収穫で何よりも楽しみなのは、畑のすみで、おじさんと休けいをすることだ。いろいろな話をする。相談にものってくれる。ある日、僕はおじさんにジャガイモが好きなのかをたずねた。おじさんはいつも畑の手入れ(肥料まきやたがやすことなど)をずっとしているので、よほど畑(ジャガイモ)に愛情があるのだろうかと、疑問に思っていた。するとおじさんはしばらくなやみ、

「ジャガイモも好きだけど、野菜なら何でも好きだよ。」

と答えた。さらに僕が、ジャガイモ以外の野菜で、何が好きなのかを聞くと、

「トマトかな。」

と答えた。

「トマトかあ。」

 僕は忘れられない。あの豪雨を。あのミニトマトの味を。

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