2025年度 第61回 受賞作品
全共連福岡県本部運営委員会会長賞
かるたが私にくれたもの
久留米市立 田主丸中学校1年矢野 心美
「なにわづにー」
緊張感が漂う張りつめた空気の中、美しい、まっすぐな声が響く。その瞬間、その場にいる全員のまなざしが変わった。
私は、今年の春から、競技かるたをしている。競技かるたは、競技するにあたって、知能、体力、瞬発力、集中力、高い技術など、たくさんのことが必要な競技だ。あまりの激しさから、別名「畳の上の格闘技」とも呼ばれている、小倉百人一首を用いて行う競技だ。
私は、かるたが大好きだ。たくさんの努力を積み重ねた結果が、一枚の札の取りに表れたときの快感がたまらない。私は週に三回、かるた会に練習に行く。練習はきついけれど、毎回、何か新しい学びを得ることができるから負けても楽しいと思えるし、練習がある日はいつも楽しみだ。でも、練習に行きたいと思える理由は他にもある。それは、かるたをしている人たちは、皆温かいからだ。中学校に入ってから、私は友人関係で悩むことが多くなった。少し苦手だな、と思う人や、怖いな、と思う人が、中学校にはいる。だけどかるたに行けば、練習に来る人たちには、面白くて、気が合う人が多い。かるた会の皆と一緒に居るときは、家とはまた別の、安心感があった。
少し前の私には、ある目標があった。それは、C級に昇段することだ。かるたは、実力に応じて、五つの階級に分けられる。上から、A・B・C・D・E級だ。私はそのとき、D級だった。前に大会に出たときは、二回戦で負けてしまい、とても悔しい思いをした。次に控えていたのは県大会だった。県大会でC級に昇段することを目標に、練習に励んだ。
ついに迎えた大会本番。緊張でお腹が痛くて、胸がはりさけそうだった。会場には同じかるた会の人もいて、たくさん応援してもらえたから、「私ならできる」と思えてきた。私は開会式から、誰よりも緊張感と集中力をもって試合に臨んだ。
私は無事に、一回戦、二回戦、三回戦と勝ち上がることができた。次は、準々決勝で、この試合に勝てば、C級に昇段することが決まる。でも、相手は大学生。自分と同じように、ここまで勝ち上がってきている。私の心臓はバクバクだった。試合は、札を並べる瞬間から始まっている。最初の札、取ったのは私。でも、相手も速い。途中まで私がリードしていたが、私のお手つきで、私は一気にピンチになった。四枚差で負けている状況、とてもあせった。けれど、まだあきらめない、勝ちたいという一心で、くらいついた。終盤、場には、札が残り五枚。私が二枚、相手が三枚だった。次の札は、私の陣の札が出た。私が一枚、相手が三枚、次の札を取れば、私の勝利、昇段が決まる。
上を見て、深呼吸。私が毎回かかさずにする、ルーティーンだ。私は耳をすませた。
「ゆうさればー」
私の陣の札だった。わずか一瞬。その一瞬に、私は今までで一番、がむしゃらになった。札を取ったのは私だった。その瞬間、私の胸の中は、うれしいのか、感動しているのか、よくわからない気持ちになった。私が今まで積み上げてきたものが、この一枚の取りに表れたんだな、と思った。
その後も私は、準決勝、決勝と無事に勝利し、優勝することができた。今まで頑張ってきてよかったと、心の底から思えた。
今、私はC級に昇段し、また新たな目標に向かって、仲間と切磋琢磨しながら日々の練習に励んでいる。私は、自分が今かるたを続けることができているのは、ずっと見守って支えてくれる両親、応援してくれる友達、色々なことを学ばせてくれるかるた会の方々のおかげだと思う。今までも、そしてこれからも、私はたくさんの人に支えられてかるたを続けていくだろう。その中で何より一番大切なのは、感謝の気持ちを忘れないことだと思う。
私は今反抗期で、感謝することを忘れることが多々ある。たまにでも良いから、人に気持ちのこもった感謝の言葉を伝えていきたい。
私は、かるたを通じて、たくさんの新たな学びを得ることができた。人への感謝を忘れないこともそうだし、これから大人になるにつれて必要な礼儀作法や、人への接し方など、かるたをしているおかげで、たくさんのことが学べたと思う。そして何より、かるたは私に「夢」をくれた。今までは、将来、何をしたいか、どんな人になりたいか、明確な夢がなかった。けれどかるたを好きになるにつれて、「誰からも愛され、応援される選手になること」が私の夢になった。この夢を叶えるために、これからも努力を積み重ねていく。
今日も私は、畳に座る。目の前には、大好きな札。競技開始を意味する歌が読まれる。
「いまをーはるべとーさくやこのーはなー」
私は、耳をすませた。