2025年度 第61回 受賞作品
全共連福岡県本部運営委員会会長賞
当たり前は当たり前じゃない
私立 福岡雙葉小学校5年樋口 馨莉
「わあ、なつかしい。」
だが子屋さんのレジでお母さんがとつ然大きな声を出した。目線の先を見ると、そこにはたくさんのひもが出た四角い箱がある。中をのぞくと、赤、青、黄色のいろいろな大きさのあめが入っていた。
「糸引きあめって言うんよ。糸を引いて、大きいのが出たら当たりだよ。」
と教えてくれた。お母さんが小学生のころからあって、だが子屋さんでよく引いていたらしい。私は、早速お母さんにお願いして、一回糸引きあめを引いた。一回十五円。赤い小さなあめだったけど、いちご味であまくておいしかった。
それから、数か月後、びっくりする知らせをお母さんが運んできた。
「糸引きあめ、もう買えなくなるって。」
なんと糸引きあめを作っていた日本でただ一つの会社が作るのをやめたというのだ。
「あのあめがもう買えなくなる。」
そう思うと、私はいますぐにでもだが子屋さんに行きたくなった。近所のだが子屋さんはもう売り切れて買えなくなっているかもしれない。むねがそわそわして、いてもたってもいられなくなった。
週末、私は、妹といっしょにだが子屋さんに走った。いつもはお店に入ったらほかのものを見て回るけど、この日はちがう。真っ先におくのレジに向かった。
「糸引きあめがある!」
妹と目で合図をしあった。
「糸引きあめ、二回おねがいします。」
そういって、私は、二本ひもを引いた。ひとつは黄色の大きなあめ。うれしくて、食べるのがもったいなくて、家まで食べずに帰って、お母さんに見せた。
こんなにおいしいあめがもう買えなくなるなんて、本当に残念だ。調べてみると、糸引きあめの会社は、戦争が終わった一九五〇年ごろ、糸引きあめを作り始めたそうだ。作る作業は、なんと全て手作業だ。近年、原材料の値段が一気に上がったこと、会社をつぐ人がいなかったことなどから、今年五月にせい造を終了したとのことだった。
糸引きあめがなくなると知っていたら、もっと何度もだが子屋さんに行ったのに。ガムを買わずに糸引きあめを買ったのに。お母さんの小さいころの思い出の味を私も味わえてうれしかったのに、もう買えないなんて……。当たり前にいつもある、いつでも買えると思っていたものがなくなると、とてもさみしくなる。なくなると知って初めて、その大切さに気づいた。今、私の周りにある物も、人も、当たり前ではない、永遠ではないんだ。自分の周りの物や人を今まで以上に大事にしていきたい、そう思った。