2025年度 第61回 受賞作品
全共連福岡県本部運営委員会会長賞
幸せを気付かせる香り
宗像市立 東郷小学校6年西村 咲那
「畑の香りは幸せの香りなんだよ。」
これは私が一年生の時、祖父が口にした言葉だった。
私の祖父は野菜や果物を育てている。焼けるように暑い日でも、雪が降っている日だろうとかかわらず毎日畑に通い、植物のお世話をしている。
そんなある日、祖父が
「今日は一緒に畑に行かない?」
と、言ってきた。私は了承したけれど、実はあまり行きたくない。畑が苦手だからだ。正確には畑自体が苦手なのではなく、嫌いなのは土のにおいだ。あの泥のようなにおいをかぐと畑仕事をする気力が失われてしまう。しかし、祖父の畑を目にして見せるキラキラした笑顔を見ると、いつも行きたくないとは言えないのである。
畑にはあっというまに着いた。車のドアを開けたとたん、導かれるように鼻に飛び込んでくる畑のにおいに苦労しながらも野菜の水やりを始めると、祖父が
「畑の良い香りがするね。」
と、言った。私は疑問に思った。私の知っている畑のにおいと良い香りは程遠いものだからだ。すると祖父は私がだまっていることに気付いたのか、
「畑の香りは幸せの香りなんだよ。」
と、言った。
それからの時間、私は幸せの香りについてずっと考えていたけれど、結局何も分からなかった。けれど、何時間も前の話を蒸し返すのは何だか気まずくて、次に祖父と一緒に畑に行く時に聞いてみることにした。
しかし、祖父と一緒に畑に行く日は来なかった。祖父は私と畑に行った数日後、急に体調をくずし、その一週間後に亡くなった。私は幸せの香りを祖父に聞くことも一緒に畑に行くことも永遠にできなくなってしまったのだ。
あれから、四年の月日が流れた。今日は祖母と畑の草かりをするため畑に来ている。畑に来たのは、あの日以来。畑は荒れ放題になっていた。前に畑に行った時は、まるで祖父の植物に対する愛情を受け取っているかのように畑全体が温かかったのに、今は前まであった温かさがきれいさっぱりなくなっている。そんなことを感じながら、なんとなく畑の中を歩いていると、あるものを見つけた。びわだ。びわは、さっぱりと甘い黄色の果物で、祖父が昔から大事に育てていた。そこで「あっ」と、思いつく。びわを祖父に持っていってあげたらいいのではないか。祖父もきっと喜ぶ。びわを取り、早く見せるため急いで家に帰り仏壇の前にびわを置いた。すると、不思議と今、私は幸せだなと実感してきた。四年も経ってしまったけれど、こうやって祖父が大切にしていたものを受け継いで、つないでいく。私は幸せの香りにかこまれて過ごしていたことをようやく知った。
仏壇のとなりには、祖父が畑仕事をする時に着ていた服がかかっている。けれど、今まで苦手だったあの香りはもう嫌ではなかった。気が付いた時には、「幸せを気付かせてくれた香り」が部屋全体に広がっていた。