ホーム > 小・中学生作文コンクール > 過去の受賞作品

「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

西日本新聞社賞

忘れ物ゼロを目指して

北九州市  熊西中学校3年中芝 光功

 僕は、迷っていた。修学旅行実行委員になるかどうかを。

 確かに、自分が実行委員になって、学年のみんなの役に立ちたい気持ちはあった。でも、それ以上に、三年生の一大イベントである修学旅行を自分もみんなと一緒に楽しみたいという気持ちも強かった。

 そんな時、友達が、一緒に実行委員になろうと誘ってくれた。僕は、背中を押された気がした。

 運命の実行委員決めの時は、すぐにやって来た。僕は、やるからには実行委員長にならなければ、と心ひそかに決めていた。そして、ありがたいことに、僕は実行委員長になることができた。

 その日からは、たくさんの時間を費やし、次から次へと準備に追われた。

 そんなある日、僕が教室の鍵をかけていたとき、学年主任の先生が、思いを語ってくれた。

 「一年と二年の時は、忘れ物ゼロにならんやったけど、この三年間、やればできる生徒を育ててきたつもりだから、頼むね。忘れ物ゼロは、私の大きな目標やから。」

 その日から、忘れ物ゼロは、何としても達成したい、僕の大きな目標にもなった。なぜなら、中学校生活最後の宿泊行事である修学旅行を大成功に収めるのが、実行委員長の役割だと思ったからだ。

 でも、百名以上いる学年生徒の忘れ物がゼロになるのは、簡単なことではない。先輩や先生方に聞いても、経験がないという。第一、僕たち三年生は、毎日の授業でも、先生があきれるほど忘れ物が多い。僕一人の力では無理だ。僕は、十七名の実行委員の力も借りて、忘れ物や違反のない、楽しい修学旅行にしようと、みんなに呼びかけ続けた。

 修学旅行前日、いよいよ荷物点検が始まった。体育館で学年の先生方が点検をしている最中、僕は「忘れ物は、大丈夫だろうか。」と、心配で気が気ではなかった。また、「スマホやゲームなどが出たらショックだな。」とも思っていた。

 長い荷物点検が終わり、学年主任の先生が、点検結果を実行委員長である僕に伝えた。

「忘れ物も違反もゼロです。」僕は、興奮気味にみんなに伝えた。体育館は、大きな拍手で一杯になった。

 学年主任の先生は、目に涙を浮かべながら「本当によかったね。」と、言ってくれた。僕は、気もちのよいスタートが切れた。いや、そう思っていた。

 修学旅行当日の朝、その日も荷物点検があった。僕は、いつも通り、自信を持ってサブバッグから荷物を取り出し、余裕満々で荷物点検の順番を待っていた。そして、いよいよ僕の番だ。

 僕が異変に気づいたのは、その時だった。まさかの僕の「弁当」が無いのである。僕は、一瞬で顔が青ざめ、言葉も出なかった。

 先生たちは「大丈夫。小倉駅で買おう。」と優しく言ってくれた。でも、僕は納得しなかった。二日連続忘れ物ゼロを僕のせいで台無しにしたくなかったのだ。僕が必死に先生方に頼んだ結果、先生方も仕方なく許してくれた。

 それから、僕は全力で走って家に取りに帰り、なんとか実行委員長挨拶までには間に合ったものの、みんなに申し訳ない気持ちで一杯になった。そこで、改めて忘れ物ゼロを達成するのがいかに難しいか、身をもって知ることができた。

 この修学旅行の忘れ物ゼロの取り組みは、全校へと広がっていった。

 三年生の体育委員長から、体育大会では、忘れ物ゼロを全校で目指すことが、二学期の始業式後に告げられた。各クラスの体育委員からの日々の呼びかけで、練習期間の約二週間、体操服・帽子・水筒・タオルなどの忘れ物ゼロをみんなが意識する。その日に忘れ物がなければ、気もちよくスムーズに練習をスタートできる。そのうちに、忘れ物をしないことが当たり前になる、という説明だった。

 体育大会の練習が始まった初日、まず三年生は、忘れ物ゼロだった。一・二年生に先輩として手本を見せられ、うれしかった。これも修学旅行で学んだことを生かせたおかげだと思う。

 このように、忘れ物ゼロを目指すことは、みんなの意識を変え、大きな喜びを僕たちにもたらした。そして、自分自身も大きく成長することができた。

 忘れ物ゼロ、それは昨日と違う自分に出会うための扉だと、僕は思う。

ページ上へ