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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

西日本新聞社賞

重すぎるバトン

北九州市  福岡教育大学附属小倉中学校1年釘本 真佑

 四月。私は中学生になりました。入学式でまず目にとびこんで来たのは、たくさんの楽器たち。この瞬間から、私のリレーがスタートしました。

 部活動体験が始まりました。私は迷わず音楽室へ向かいました。たくさんの楽器があります。知っているものもいくつかありました。私が気になっていたのは、トロンボーン。まずは行ってみることにしました。

「ガラガラ。」

とびらを開けると、優しそうな先輩方が待っていました。少し確認をして、楽器を吹いてみることになりました。キラキラしていて、とてもきれいな楽器でした。吹いてみると、

「パァーン。」

音がなりました。先輩方からもほめていただき、トロンボーンがしたいという思いがさらに強くなりました。

 二日目、三日目も、いろいろな楽器を体験しました。でも、私が一回も吹かなかった楽器があります。それは、チューバです。チューバは、とても大きな金管楽器です。多くの場合、男子が演奏するそうです。私は、どうしても興味が持てませんでした。

 入部届を出す期間になりました。私は迷わず吹奏楽部に入部しました。部活動の時間になり、音楽室へ行くと、たくさんの先輩方が迎えて下さいました。これからがんばろう、そう思いました。

 入部して少しすると、もう楽器決めです。先生の前で希望の楽器を吹き、仮決定が貼り出され、先生と面接をするという流れです。

 オーディションの時間になりました。幸い上手く吹くことができ、仮決定もトロンボーンとユーフォニウムでした。希望の楽器です。とてもうれしくて、友達と一緒に大喜びしていました。

 次の日です。面接の時間になりました。何人かの面接が終わり、私の番になりました。

「失礼します。」

部屋に入ると、先生が座っていました。私も座らせていただき、面接が始まりました。性格や、特技など、少し話をしてから、突然先生が私に言いました。

「釘本さん、チューバやってみない? 向いてると思うな。」

「はい?」

思わず聞き返してしまいました。先生は何を言っているんだろう。頭が真っ白になりました。ところが私はその瞬間、

「やります。」

と、言ってしまったのです。

「じゃあ、よろしくね。」

この瞬間から私は、チューバを吹くことになったのです。

 楽器の発表になりました。みんなの楽器が発表されていきます。私の番になりました。

「チューバ。釘本さん。」

みんなザワザワしています。こっちを見ています。まさか女子が吹くなんて。そんな思いが見えた気がしました。

 各楽器の位置につきました。そこにあったのは、やっぱり大きな金管楽器でした。ため息をついていると、チューバの先輩が言いました。

「大丈夫。いつかチューバに惚れるよ。」

その時、どうしてかは分かりませんがこの言葉を信じてがんばってみようと思いました。

 先輩は、三年生です。チューバは二年生がいないので、先輩が引退してしまうと、私一人になってしまいます。もし私が、全然吹けなかったら。みんなに迷惑をかけてしまいます。私は先輩から、重すぎるバトンをパスされた気がしました。

 それからは、練習や合奏にも一生懸命取り組みました。嫌いなランニングも、精いっぱい走るようにしました。すると、だんだんチューバを吹くことが楽しくなってきました。

 そして月日がたち、三年生が引退する時期になりました。チューバの先輩も、引退してしまいます。たくさんの先輩方がいなくなってしまいました。

 先輩がおらず、技能的にもまだまだですが私は今一人でチューバを吹いています。確かに、合奏で注意されることもたくさんあります。でも、私は先輩のあの言葉のおかげでがんばれています。

 重すぎるバトンを持った私のリレーは、まだまだ続いていきます。

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