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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2024年度 第60回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

うらはら

岡垣町立  岡垣中学校1年太田 一颯

 お願いだから一人にさせてくれ。僕にかまうな。
 僕は三兄弟の長男だ。二つ年下の弟、六つ下にも弟がいる。二つ年下の弟とはどこに行くにも、何をするにも一緒だった。というか、僕のあとをついてくる。
 弟は男女問わず友達が多い。僕が見る弟はいつもたくさん友達に囲まれているイメージで、いつも楽しそうにしている。その世界で楽しくしてたらいいのに、なぜか弟は僕についてくる。学校から帰ると、友達と遊んだ後でも一緒にキャッチボールをしようと誘ってくるし、一緒にゲームをしたいとお願いしてくる。イベントも僕が参加するなら行くし、参加しないなら行かないと言う。事あるごとに「一颯、一颯!」と呼んでくるし、朝だって小学校と中学校は方向が別なのに、共通の五十メートルを一緒に行こうと、早く出る僕の時間に合わせてついてくる。
 今まではそれが当たり前で、仲良し兄弟と言われると嬉しかったし、何とも思わなかったが、僕が中学生になってから、ちょっとずつめんどくさくてイライラするようになった。理由はよくわからない。ただ、うっとうしく感じるようになったのだ。僕の弟に対する口癖は、「うるさい。僕にかまわんで。 あっち行って。」になっていた。
 ある日、弟が学校から一枚のチラシを持って帰ってきた。そこには二泊三日のスキー教室の案内が書かれており、参加したいと言った。当然のように僕を誘うのだろうと思い、
「僕は行かんよ。」
うんざりして弟の方を見ずに言った。すると、
「一颯は中学生だから行けない。友達と行くよ。」
弟は楽しそうに答えた。驚いた。あれだけ僕と一緒じゃないと嫌がる弟が。心配性で、行事のたびに緊張で食事が喉を通らなくなる弟が。泊まりで友達と参加するって言うなんて。よくわからない感情が心に渦巻いた。
「お前が二日もおらんくなるとか清々する。」
気づいた時には弟にそう言ってしまっていた。
「なんでそんなこと言うん。」
弟が一言つぶやいた。
 いつもは僕たちのやりとりに何も言わない母が、
「さすがにそれはないんじゃないの。」
とピシャリと言った。
「はいはい、すみませんでしたー。」
よくわからない感情に支配されたまま、自分でもどうしたらいいかわからなくなって、前を向いたまま形だけの返事をした。両親は、弟の初めての申し出に喜び、すぐに申し込みを行った。弟は友達に嬉しそうに報告していた。
 弟が出発する日、家族で集合場所まで送りに行った。弟は緊張から朝ごはんを食べることができなかった。いつもは僕がそばにいて、様子を見てやることができるが今日は違う。スマホも持って行くことができないから、これからほぼ二日間、連絡をとることもできない。僕は持っていたグミを弟の口に入れてあげた。弟が大好きなグミだ。弟は黙ってモグモグ食べて飲み込んだ。
 集合場所に着くと、受付を行った。弟が係の人に呼ばれ、荷物をパンパンに詰め込んだ大きなバッグを抱え、重たそうに指定の場所へ歩いていく。集合時間より少し早く着いたので、人はまだまばらで、離れた場所にポツンと弟が立っている。笑顔はなく、明らかに緊張している。母がニコニコと弟に手を振っているのを見たらイライラして、
「一人で頑張りよるのにかわいそうやん!」
と僕は言った。数分すると、弟の大好きな友達がやってきた。まだまだ表情はかたいが、弟がほっとしている様子がわかって、僕も安心した。あっという間に出発の時間になり、弟は颯爽とバスに乗り込んで、手を振って行ってしまった。
 弟の出発を見送ったあと、家族で食事に行った。弟がいない食事は、いつもより静かだった。いや、いつも通りなのだけど、「一颯」と呼ぶ声がしないのだ。メニュー表を見ても、弟なら大好きな杏仁豆腐を食べるんだろうなぁとか、今ごろ着いたかなとか、お昼ご飯、緊張できっと食べられていないのだろうなとか、そんなことばかりぼんやりと考えていた。そして、帰るとすぐにスキー教室のしおりを開いて、初めて弟が帰り着く時間を確認した。弟がいない一日が、あまりに退屈で、静かだった。とにかく時間が経つのが遅い。まだ明日もいないというのに。
 弟が帰ってくる日は、僕と弟が大好きなゲームのイベントがある。弟が帰ってくるまでに、弟のレベルを上げといてやろうかな。絶対に喜ぶから。そして、
「梛成、 今日イベントばい。一緒にしようや。」
と、弟にゲーム機を渡すつもりだ。

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