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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

「私」と向き合う大切な時間

私立  久留米信愛中学校1年髙嶋 伶

 四月に入学して、あっという間に過ぎ去った中学校での九ヶ月。すっかり馴染んだ教室に入って、私は今日も友達に、
「おはよう。」
と声をかける。課題の話や好きな芸能人の話をして、やがて席に着き、自主学習を始める。しかし、私の一日は、この二時間前に始まっていた。
 私が住んでいるのは大分県で、通っている学校は福岡県にある。そのため、久大線という久留米から大分間をつなぐ列車で、毎日一時間ほどかけて通学している。
「なぜ県外から通うの。」
「毎日大変だね。」
今でもよく言われる言葉だ。確かに、朝は早いし、帰宅するのも遅くなるのだが、列車にゆられる時間は、私にとってお気に入りの時間だ。
 入学する前、列車での通学に不安な気持ちが全くなかったと言えば嘘になる。実際、母と二人で何度か通学路を辿ってみたりもした。朝早く起きることができるかというのも心配だった。
 初めての登校日。きちんと予定時刻に起床して、真新しい定期券も持ち、緊張しながら一人っきりで、数人の乗客とともに列車へ乗った。「ここに座っていいのかな」「私非常識なことしていないよね」と、心臓がどきどきした。数分列車にゆられ、窓の外に目をやったとき、一人で初めて感じた、早朝のあの感動は、今でも忘れられない。いつも車で通るあの道は、実は福岡県につながっている。高い線路から見下ろすいつもの景色は、また一味違っていて、青々とした葉や、赤や黄色のカラフルな実があった。県境を越えたときは、新しい未知の世界の扉を開けて、清々しい風が入ってきたような、今までに感じたことのない新鮮な感じが体中をめぐっていた。初めて聞く駅名、だんだんと都会の雰囲気になっていく景色や乗車してくる人々の様子。一駅ごとにまるで本を一章読み終えたような気持ち。そして、そうしているうちに、あっという間に学校の最寄り駅に到着することができた。
 毎日通っているうちに、それぞれの駅や地域の特徴なども少しずつわかってきた。私が乗り一駅を過ぎると、ある大きな川がある。その川岸に、電力会社の発電所が建っている。その建物に書いてあるスローガン、それは、「ずっと先まで、明るくしたい」。きっと、電気で私たちの生活を明るくする、という意味だろうと思うのだが、このスローガンを初めて目にした日から、どうも頭から離れなかった。ずっと先とは、未来のこと。未来は、今の私が大人になってつくるもの。つまり、「ずっと先」を明るくするのは、私なんだと。毎日その言葉が見える席に座って、本を読んでいるときでも、音楽をきいているときでも、友達と会話しているときでも、私はこれを見て「今日もがんばろう。」と心に決める。つまり、力をもらえる。
 力をもらえる駅もある。その駅には私の祖父くらいの年齢に思える駅員さんがいる。その駅員さん達は毎回、列車がその駅を通過する際に必ずお辞儀をするのである。頭からきちんと九十度、列車が見えなくなるまで絶対にそのままだ。また、私がその駅で降りたときは、必ず、
「おつかれ様。」
と笑顔で声をかけてくれる。
 私に明るいエネルギーをくれるもの、
「今日もがんばって。」
学校の最寄り駅の駅員さんは毎朝、定期券を提示する際に。
「走ったら間に合うよ。がんばれ。」
友達が乗ってくる駅の駅員さんは乗り遅れそうな人に向かって。
 みんなより二時間早く始まる私の一日は、たくさんのパワーをもらえる、私のビタミン剤である。ただ同じ列車に乗り合わせただけの名前も知らない人から力をもらえるのは、遠くから通っている私だけの特権だと思う。
 そう、列車から見る景色も、一時間ほどの時間も、中学校で出会った友達と同じくらい大切な私の宝物になった。「ずっと先」の未来で輝くためにがんばる私を応援してくれる見ず知らずの人々のエールを受け取りながら、今日もガタンゴトンと列車にゆられ、少しずつ進んで行く。

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