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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

「ありがとう」

私立  飯塚日新館中学校2年神谷 陽向子

  「ひなこちゃん、いつもありがとう」これは、私の親友から届いた手紙の中で、最も心に残っている言葉です。その親友は私より一つ年上の、何でも話せるお姉さんのような存在でした。
 彼女とは家族ぐるみの付き合いの中、一緒に遊ぶようになったことがきっかけで、仲良くなりました。彼女は私の家から車で一時間ほどかかる、少し離れた所に住んでいたので、会えるのは多いときでも一か月に一度程度でした。それでもお互い、楽しかったこと、嬉しかったこと、苦しかったこと、悲しかったことを何でも話すことができたので、私は彼女に会える日をとても楽しみにしていました。短い時間でしたが、彼女と私の間には、いつも笑顔の輪が広がっていたように思います。
 しかし、彼女のお父さんの転勤が決まり、彼女は今よりもだいぶ遠い所、県外へ引っ越すことになりました。私は、とてもさびしい気持ちでしたが、「夏休みに、また会おうよ」という彼女の言葉に、再び元気と笑顔が戻ってきました。
 しかし、この日を最後に、彼女の元気な姿を目にすることはありませんでした。母から伝えられたのは、彼女は病気で長期の入院が必要になったので、会うことは難しいということでした。私はその後、彼女に何かできることはないか、一生懸命考えました。そこで、真っ先に思いついたことは、手紙を書くことでした。すぐに、便箋を用意し手紙を書こうとしたのですが、いつものように書くことができませんでした。次々と出てくる涙を拭き、再び書こうとするのですが、不安な気持ちが多い中、書く言葉が見つかりませんでした。
 時間が刻々と過ぎていくばかりでしたが、あきらめず必死に考えました。そのとき、ふと母の言葉を思い出したのです。「いつどんなときも、自分だったらどうだろうと、相手の気持ちを自分の気持ちに置き換えて考えると、きっと分かることがある、心は体の中で一番大切なところだから、しっかり考えながら生活していると、明るい笑顔が増えるよ」という言葉です。そこで、私は自分が肺炎で入院し、心細かったときのことを思い出しながら手紙を書きました。それから数週間後、彼女から手紙の返事が届きました。彼女は長期の入院が必要なほどの病で、不安なことや苦しいことが多かったと思うのですが、手紙の内容は、「元気に頑張っているよ」という、とても生き生きとしたものでした。彼女の手紙が、私の沈んだ心をどこかに吹き飛ばしてくれました。私は彼女の優しさと心の強さに胸を打たれ、涙が止まりませんでした。それからも、手紙のやりとりは続きました。その中で、彼女が将来、医者になりたいということを知りました。「自分のような重い病気の子供達を今度は自分が助けたい。だから、早く病気を治して学校に行き、勉強を頑張りたい」と力強い言葉で書いていました。私は、病気に負けず、しっかり前を向いて頑張ろうとしている彼女のことを、すごいと思いました。彼女の真の心の強さに感動し、私も彼女を見習って頑張ろうと思いました。そして、入院から七か月後、彼女は退院したのですが、その三か月後の検査で病気が再発していることが分かり、再び入院することになりました。それでも、彼女は一生懸命病気と闘いました。しかし、その三か月後、小学五年生という若さで亡くなりました。病名は、急性骨髄性白血病でした。当時小学四年生だった私は、親友の死を受け入れることができず、一人になると我慢していた涙が止まらなくなっていたことをよく思い出します。
 それから時が経ち、私が小学六年生になった頃、母から骨髄移植の話を聞きました。私の本当のお姉さんのような親友は、骨髄移植ができていたら、今、元気に中学校に通っていたかもしれないということも知りました。そのことを知った私は、白血病、骨髄移植のことを一生懸命調べました。その中で、骨髄移植は、骨髄の型が合わないとできないこと、そして、その型の合うドナーが見つかる確率は、他人の場合、数百から数万分の一しかないことが分かりました。骨髄移植を希望する全ての患者さんのことを考えると、一人でも多くの方のドナー登録が必要です。しかし、二十代、三十代のドナー登録者が少なく、現在の大きな課題になっているそうです。もう、親友のように、骨髄移植ができないまま亡くなる人を増やしたくありません。だから、私は、これからも毎食しっかりご飯をいただき、体力をつけ、十八歳になったら、ドナー登録をすると心に決めました。
 これから年を重ねると共に、苦しいことや悲しいことをたくさん経験していくと思います。しかし、どのような状況のときでも、「ありがとう」の心を大切にし、たくさんの元気をくれた親友のような人に私はなりたいです。

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