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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

何を詰めようか

糸島市立  志摩中学校1年村上 大生

 みなさんノートはなんのためにあるのだろうか。メモを取るため、勉強をしやすくするためなどの、勉強に使うためといった意見が多いと思う。だが冬休み中に、こんな使い方もいいな、こんな使い方をしてみたいと思うような出来事があった。それは正月が始まる前のことだった。
 僕は、一冊のノートを見つけた。
 正月が始まる前、仕事で父は来られなかったので、母と二人で、父の実家の大掃除を手伝っていた。僕は、物置きの整理をしていると、一冊の古びたノートを見つけた。そのノートは茶色く黄ばんでおり、表紙に村上と書かれていた。祖母に、このノートを見せ、
「これ誰のものなの。」
と聞くと、祖母はなつかしそうに、
「大ちゃんのお父さんが使っていたものだよ。」
と言った。ふーんと思い、ノートを開くと、真面目にメモを取っているページは少なく、ほとんどが落書きだらけで、自作のゲームや、好きなプロレスラーのこと、嫌いな先生の顔などが書いてあった。そのノートを見て、僕は、父は適当にノートを取っていて、このノートは勉強に使えない、「なんの意味もないノート」だと思った。僕は他にもないかと、父のノートを探してみたが、見つからなかったので、祖母に聞いてみると、
「昔は貧ぼうだったから、ノートは一冊しか買ってあげられなかった。」
と悲しそうに祖母は言った。そんなことがあったんだと思いながらノートを見ていると、
「なにぼーっとしとうと。早く掃除しなさい。」
と母に怒られたので、僕は、すぐに掃除を始めた。
 大掃除を終わらせ、自分の家に帰った。仕事が終わった父に、このノートを見せると、なつかしいような、照れくさいような顔で、
「よく見つけたな。」
と言った。父は、ゆっくりとノートのページ一枚、一枚をかみしめるようにめくっていった。僕がテレビを見ていると、横から大きな笑い声が聞こえたので見てみると、そこには、ノートを読む父がいた。まだ読んでいるのかと驚いたが、しばらくノートを読む父を見ていると、時々大きな声で笑ったり、しかめっ面をしたり、目をこすりながら、鼻水をすすったりしていることが分かった。こんなに感情を表に出す父は、久しぶりに見たので、
「なにがそんなに面白いの。」
と聞くと、父は、嬉しそうにノートを見せながら、昔の自分のことを話し始めた。捕まえた蛇を風呂場で、ばれないように飼っていたこと、梅酒を友達と飲んで、顔を赤くして帰ったこと、授業をサボって、ゲームセンターなどに行っていたこと、バイクに乗ったところを先生に見つかり、ひどくしかられたことなど、色々なことを話してくれた。昔の父は、やんちゃだったらしい。僕は驚いた。なぜなら、今の父からは、こんなこと想像できないからだ。そのあとも父は、ずっとそのノートを見続けていた。母が、
「ご飯できたよー。」
と、ご飯の合図をすると、父は僕に、
「ありがとう。このノートを見て、久しぶりに昔のことを思い出した。昔の父ちゃんすごいだろ。」
と自慢気に言って、僕にノートを渡していった。僕は、落書きだらけのノートを見たとき、「なんの意味もないノート」だと思っていた自分が勘違いしているのだと分かった。なぜなら、このノートには、父の昔の頃の思い出、つまり「青春」が詰まっていたからだ。
 僕は、そんな父がうらやましくなった。自分のノートを見るだけで、昔のことを思い出すような「青春」が詰まったノートを書ける父がうらやましくなった。ノートを見せながら、息子に昔のことを自慢する父がうらやましくなった。ノートは、先生の言ったことをメモしたり、黒板に書いてあることを、書き写したりして、勉強で活用するものだ。だが父のように、ノートに「青春」を詰めても良いのではないだろうか。
 僕も、読むだけで昔のことを思い出して、一喜一憂できるような、一ページ、一ページに、「青春」が詰まったノートをつくりたい。僕に、もし子供ができたときには、ノートを見せながら子供に、昔のことを自慢できるようなノートをつくりたい。こんなノートのつくり方は、まだ分からないが、父がしていた落書きとは、また違った形で、つくっていきたい。
 今日で冬休みも終わりだ。明日から学校が始まる。これから僕は、自分のノートに何を詰めようか。

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