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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

福岡県知事賞

祖母と母の「適当」

福岡市立  箱崎小学校5年 咲空

「魚の煮つけは絶対ばあばが作った方がおいしいんよね。」
母はいつもそう言って近くでくらす祖母に煮魚を作ってもらう。 確かに祖母の煮魚はとてもおいしい。どちらかと言えば、うす味でほんのり甘く、皮の下の身は白いままだ。身を煮汁にちょんっとつけて食べると完ぺきな味加減。あまりのおいしさに家族みなが夢中で食べるため、煮魚の日は食卓が静まり返る。母が祖母に作り方をたずねても、
「うーん。しょう油をぐるっと適当に。」
と、あいまいな返事しかもらえない。母は祖母の味を再現することをあきらめている。
 先日、初めてマカロニサラダを作った。材料は母と同じ。出来上がってすぐ味見をした。あれ、何かちがう。けれど何がちがうのかが私にはさっぱり分からない。夕食時、家族は「おいしい。」
と、言ってくれるだろうかとドキドキしながら食卓に出した。私は、
「母ちゃんのマカロニサラダにはかなわん。」
と、みなが食べるよりも先に言った。いまいちな反応をされたときに落ち込まないよう、先手を打ったのだ。まず母が食べた。だまったままだ。次に父が食べる。
「うん。味は丁度いいよ。おいしいよ。」
と、何度もうなずきながら言った。「よしっ。」と思いながらそうっと母の顔を見た。母は、
「きゅうりの塩もみはしたと。」
と、聞いた。もちろんした。私がうなずくと、
「きゅうりの切り方がちがうけん、塩味がうすくなったのかもしれんね。」
と、母が言った。切り方一つで味が変わるのかと私はおどろいた。母は続けて言う。
「そんな時はマヨネーズを少し足すとよ。」
混ぜる際にかなりの量を入れたのに。私は少しむっとしながらマヨネーズの量をたずねた。
「分からん。ぐるぐるって。」
と、母は円をかくように手を動かしながら答えた。私は思わず吹き出してしまった。私が、
「ばあばが魚の煮つけの作り方を教えるときと同じ。」
と言うと、父と姉も笑った。母は口をとがらせ
「だって分からんもん。適当にぐるって。」
と、また手を動かし、笑い出した。みなで笑いながら食べたサラダはとてもおいしかった。
 料理に関する本やテレビを見ると、「少々」「ひとつまみ」などのあいまいな表現が使われている。祖母や母が使う「適当」もよく分からない。「適当」を辞書で調べると「ふさわしい」「丁度いい」とある。私は今まで「適当」は「いい加減」などのあまりよくない意味でしか使ったことがなかったが、祖母と母の「適当」は、きっとその料理に「ふさわしい」味付けをすることだ。母にもう一度たずねた。
「マヨネーズの量は計らんと。」
「計らんよ。味見をしながら調整するとよ。」
母は当然と言わんばかりの顔で答える。やはりそうだ。母の「適当」はいい加減ではなく「ふさわしい」の意味だ。
 祖母の煮魚も母のサラダもきっと食べてくれる家族のことを想って作るからおいしいのだ。私もいつか
「さくらの味が一番。」
と言ってもらえるような得意料理をもちたい。まずは家族のために心をこめて料理をしよう。

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