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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

日本農業新聞賞

やさしい風が吹く風景画

私立  明治学園小学校6年阿部 由芽

「エイッ。」
心の中で気合いを入れて、まずは長い縦の線を描いた。「ドキ、ドキ」と自分の心臓の音が耳にひびく。最初に筆を入れるのは、とても勇気がいった。しかし、ここで止まるわけにはいかない。そして、数本の線を一つ一つ描いていく。だんだんと「のぼり棒」らしくなってきた。そう、そう、その調子。私は自分で自分をはげまし続ける。校庭の周りを囲んでいるフェンスのあみ目をていねいに描いていく。マジックでの一筆描きは、想像していたよりも難しく、下書きをしていない分、失敗できない緊張感に包まれ、じわじわと手から汗が出てくる。それでも私は集中して、奥にある校舎を描き進めていく。
「やっぱり、のぼり棒でしょう。」
私は、図工の授業で、校内の風景画を描く場所を決める時、迷わず「のぼり棒」の風景を選んだ。それは、六年間の小学校生活の中で一番思い出深く、好きな場所だったからだ。「のぼり棒」の近くには、たくさんの木がある。この木々のおかげで、大きな木影ができる。その場所は、「のぼり棒」で遊んで汗ばんだ私達のオアシスになった。木々がゆれ、「サワサワ」という音がして気持ちの良い風が吹き、私達をやさしく包んでくれた。
 私は、「のぼり棒」に色を入れていく。青色、黄色、緑色、赤色が「パッ」と浮き上がり、かがやき出した。青色、黒色、茶色を薄くぬり重ねていくと木影は、まるで生きている様に動き出す。やさしく、ゆったりとした木影と直線的な「のぼり棒」の影は一緒に仲良く遊んでいる様だった。風に吹かれている木々は、緑色の濃淡で表現し、私の心の中にあるイメージ通りの風景画がついに完成した。
 私は、風景画を描くのは初めての経験だったが、風景画は実際に目に見える「物」や「場所」を単に描くだけではないと感じた。木影も、吹きぬける風も、友達との笑い声も、記憶の中の思い出の全てが自分の絵になっていく。出来上がった自分の作品を見て、それらの全てを感じられた気がして私は、とてもうれしかった。家に帰ると、家族がいつも、「お帰り!」と笑顔でむかえてくれるのと同じ様に、この場所は私にとって、いつもあたり前に在り、やさしくむかえ入れてくれる温かい場所だったんだな。私は自分の作品を見て、改めて思った。
 春が来ると私は、このたくさんの思い出がつまった小学校を卒業する。
「こんなにやさしい作品が描けたって事は、きっと幸せな小学校生活を送れたんだね。」
と両親が言ってくれた。私は、私を支えてくれ、温かく見守ってくれた全てに感謝して、卒業式をむかえたい。

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