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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

西日本新聞社賞

伝統文化を受け継ぐ

私立  飯塚日新館中学校2年伊藤 寧音

 私には五歳から書道を習っている親友がいます。いつも字がきれいで、ノートは花丸でいっぱいだった親友を見て憧れていました。小学校三年生の時に、書写で毛筆の授業が始まり、初めて親友が書いた字を見て、「私もこんな字が書きたい」と強く思い、三年生の夏から書道を習っています。
 書道教室に通い始めた当初は、見たことのない道具や慣れない作業に戸惑い、行くたびに緊張していました。特に、初めて毛筆の課題を書いた時は手が震えましたが、先生が朱筆でたくさん丸をつけてくださった時はとても嬉しかったです。
 一、二年すると、友達や学校の先生から「字がきれい」と言われるようになりました。しかし、その後段位が上がらなくなったり、自分で納得いく字が書けなくなったりする日が続くようになりました。いつも字がきれいで大会で賞を取っている親友や教室の先輩方を見て、羨ましく思うことや全然うまくできない自分に腹が立ち、書道が嫌になることもありました。
 中学校一年生の冬、画仙紙の課題で観峰賞という所属している書道団体で一番高い賞を取ろうと気合いが入っていたにもかかわらず、清書で自分で納得いく字が書けず苦戦していた時に先生が、「書道は見て、聞いて、書く。」と教えてくださり、実際に先生がどのように書いているのか見せてくれました。先生の師匠がおっしゃっていた言葉だそうです。この言葉の影響もあり、一生懸命練習して観峰賞を取ることができました。また、地元で開催されている書き初め大会でも優秀賞という高い賞を頂き、初めて親友にも勝てました。
 さらに、中学校二年生の秋、ずっと目標にしていた生徒部八段位昇段試験を受験しました。学校の期末考査前ということもあり、十分に練習をすることができませんでした。普段は半紙を使って書くので、半紙の課題は計画通りに進んでいたのですが、年に数回しか書かない画仙紙の課題では、すぐに感覚をつかむことができず、本番前まで練習し、ぎりぎりのところでした。本番では、手本なしで一時間で二つの作品を書き上げなければならないという大きなプレッシャーで緊張し、名前を書く時に、紙を墨で汚すという普段しないようなミスをしてしまいました。試験後、やりきったという気持ちよりもミスをしたという残念な気持ちで先生に完成した作品を見せると、「立派な字が書けたね。」と誉めてくださって少し安心しました。一カ月後、もうすぐ冬休みが来て、書き初めができるとワクワクしながら教室に行くと先生が、「おめでとう。」と言って私に封筒を手渡しました。開けてみると「八段位合格を証する」と書かれた認定書が入っていて、ここまで頑張ってきてよかったという達成感と喜びで胸がいっぱいになりました。すぐに応援してくれた親友や書道の先生をしている親戚の伯母や校長先生に報告すると、「おめでとう。」や「頑張ったね。」と一緒に喜んでくれました。
 書道は字がきれいになるだけでなく、集中力や礼儀作法が身につき、芸術としての知性と感性が磨かれるため、長年、伝統文化として親しまれています。ところが近年、情報通信技術の発展によって、字をパソコンやスマートフォンで打ち、手で字を書くという機会が減っているという問題や、少子高齢化によって、筆や墨、硯などの書道をするときに必要な伝統工芸品でもある道具を生産する職人の後継者不足が問題となっている中で、これからは書道というものが貴重になってくるでしょう。この状況が続き、悪化すると、書道が無くなると言っても過言ではありません。そこで私は、将来、師範の免許を取って書道の先生になり、日本の文化に興味がある外国人や、日本人だけど書道をよく理解していない人に、書道の魅力や楽しさを伝えていきたいです。
 他の伝統文化も書道と同じように後継者不足などの危機に迫られています。伝統文化を受け継ぐのは地味、面倒臭いと思うかもしれませんが、「字は一生の宝物」というように、長い間受け継がれてきた伝統文化は先人たちが築き上げてきた「知恵」なのではないでしょうか。伝統文化を受け継ぐために自分一人の小さな力でも、学校や地域では伝統文化を受け継ぐためのアイデアを提案したり、その特技を発揮するチャンスがあるので、積極的に取り組んでいきたいです。

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