2022年度 第58回 受賞作品
西日本新聞社賞
四才、小さな言葉の引き出し
福岡市立 宮竹小学校5年平田 蓮希
「ねぇね、キライ!」
グサッ……。このやり取りを一日何回、いや、何十回くり返していることでしょうか。
わたしのかわいいかわいい妹、四才。ただ今、ぜっさん「第一次はんこうき」をむかえています。
妹は、わたしが小学校一年生になる年に生まれました。小さくてフニャフニャだった妹。いつもわたしの後ろをトコトコついてきていた妹……。そんな妹がわたしに「キライ!」と言うようになったのです。
それを見たお母さんは、「りっぱな成長だよ。」と、笑っていますが、正直に言います。ちょっと悲しい!なんだかさみしい!
けれど、それが成長なのは、わたしもよく分かっています。妹は妹なりに、一生けん命自分の気持ちを伝えようとしているのです。だって四才、持っている言葉の引き出しは、それほど多くないのだから。
どうしたら妹の「キライ」を「ねぇね、すき。」に変えられるだろう…… と考えてみました。
まず、一つのおかしを均等に分けられなかったとき、妹の「もうやだ!キライ!」が発動します。ならば均等にしてあげたらいいんじゃないか。三つあるときは、最後の一つを半分こ。
それから、これは家族で動物園に行ったときに起こった話です。歩はばの大きなわたしは、どうしても妹より前を歩いてしまいます。そんなときに言われました。
「ねぇね、もう!なんで!キライ!」
この時の「キライ!」はきっと、「ひとりでさきにいかないで!」という意味だったのではないかと思います。
あぁ、気づかなくてごめんね妹。小さな歩はばで一生けん命追いかけてきていたのに……。ねぇね、これから気を付けるよ。
「ねぇね、すき!」この言葉を聞けるのは、わたしと妹の気持ちがバッチリ合ったときです。
例えば、妹が転んでしまったとき、わたしは自分がこんなに速く動けるのかと思うようなスピードで妹の元へかけつけます。妹の前でしゃがんで「いたかったねぇ、大丈夫?おいでおいで。」と言うと、妹は目になみだをためながら抱きついてきます。そして、「ねぇねすき。」と言ってくれるのです。そんな妹が、わたしはかわいくてたまりません。あまえんぼうなところも大好きなのです。
気まぐれな妹を見ていると、「四才ってそういうおとしごろ。」と感じます。わたしはとっくに四才の時期が終わっているので、忘れてしまっていたのかもしれません。
妹は、五月のたん生日で五才になります。キライとすきの間を知り、いつか「ねぇね、今日はふつう。」と言われてしまうかも。そんな日をかくごしながら、わたしは今日も、妹にちょっかいをかけるのです。
すごくすごくかわいい妹。「キライ」だけではなくて、「すき」もたくさん言ってくれるとうれしいな。そして、おかしが一つあまったときには、お母さんにはないしょ。二人で半分こだよ。