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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

西日本新聞社賞

本の冒険

篠栗町立  篠栗北中学校1年片本 小晴

 私は本が好きだ。いつから好きか覚えていない。物心がついたときには、毎晩のように母に絵本の読み聞かせをしてもらっていた。物語の世界観にどっぷりと浸ることが幼い頃から好きだった。学校の昼休み、引き出しから本を取り出し栞を挟んだページを開く。周りのものをシャットアウトし、時間も忘れて読み進める。まるで、本に溶けるように。本の世界へようこそ。
 小学校に入学してからは学校の図書館に毎日のように通い、絵本や低学年向けの短い本を読みあさっていた。特に好きだったのはファンタジー系だ。ふわふわしたかわいい雰囲気で、動物が普通におしゃべりする感じの。だが、私の好みとは少し違った本と出会う。
 小学三年生になりたての頃のことだ。父が「これ読んでほしいな」と一冊の本を持ってきた。辞書のように分厚くて、黄ばんでいる。見るからに中古本だ。これが私が更に本が好きになるきっかけになった小説、「冒険者たち ガンバと15ひきの仲間」だ。表紙にはネズミを背に乗せた大きな鳥が海の上を飛んでいる絵が描かれている。ずっしりと重たい本。巻末の黄ばんだページの端に書かれた数字を見て愕然とした。三七七ページ。この頃の私にとっては気が遠くなるページ数だ。「ま、まぁ内容が大事さ。きっと、かわいいネズミさんが楽しく冒険する物語なんだ。」読み始めて数分後、本をパタンと閉じた。
「なんだこの本は。面白くない。」私はすぐさま諦めてしまった。入学して以来ずっと変わらない、私の好きな本の特徴のうち、ファンタジーであること、動物がおしゃべりすることまでは当てはまっていた。だが……一番肝心の「かわいくてふわふわな雰囲気」がどこにもない!
 台所の床下の貯蔵穴に住み着いているドブネズミのガンバは、その住居を気に入っている。愛していると言えるほど。食べ物に困らないからという理由で、住処から一歩も出たがらない。台所から盗んできた食べ物を味わって食べながらくつろいでいる。正言に言うと全くかわいくない。なんかおっさんくさいし。そんなドブネズミが物語の主人公なのである。当時の私はこのドブネズミに全く興味がもてなかった。これ以上読む気が起きなかった私は、本棚の一番端に本を入れた。
 それから一年後の夏休み。課題の読書感想文のために何を読もうかと考えたときに、あの本が頭をよぎった。オススメされた本にも関わらず、ずっと読まずに放置することに負い目を感じていたのだ。それに、まだ始めの数ページしか読んでいないので、読み進めると面白い展開が待っているのではないかと思ったのだ。扇風機を強に設定。バックミュージックは蝉の声。本棚から本を引っ張り出す。「床下貯蔵穴に住み着くおじさんドブネズミと一年ぶりの再会かぁ。」気が引けるが、「これはリベンジだ!」と思い、本を開いた。しばらく辛抱して読み進めていくうちに私は衝撃を受けた。「なんだこの本は。」私はこの本に対して、食わず嫌いならぬ、読まず嫌いをしていたのだ。ページをめくる手が止まらない。大海原への大冒険。仲間との出会いと芽生える絆、強大な敵との決戦、そして仲間の死。この本には挿絵が少ないが、その巧みな文章は私の脳内をガンバの冒険の世界へといざなっていくには十分すぎた。まるで、本の世界に溶けてしまったように。周りの物音はシャットアウト、扇風機の風は海風へと変換される。ここまで本に没頭したのは初めての経験だった。読んでいくうちに、私自身もガンバと仲間たちと共に冒険しているような気さえしてきて、ラストシーンでは思わず涙してしまった。時間を忘れて本の世界を冒険しているうちに、辞書のようにも思えた分厚い本を三日程で読み終えてしまった。名残惜しさを感じつつ、パタンと本を閉じた。本当に面白かった。初めての冒険物語。次にどのような展開になるのかワクワク感がたまらなかった。この本は、「ふわふわかわいいファンタジーが好き」というこれまでの概念をいとも簡単に覆してしまったのだ。「冒険者たち」を読んでから、私は冒険物語が大好きになった。そして、私は三百ページを超える本を読み終えることができたんだ、と達成感を得ることができた。
 すっかり冒険者たちのとりこになった私は、この物語には映画版もあることを知る。これは見るしかない。早速映画を鑑賞した。さすが映像。大好きなキャラクターたちが生き生きと動いているだけで感動した。だが映画の尺で表現できるものが限られているため、小説やイメージとのずれを感じ、物足りないと感じた。
 本には本の、漫画には漫画の、映画には映画の良さがある。また、その中にもジャンルごとの良さがある。先入観にとらわれずに、さまざまなジャンルのものに触れていきたい。本は漫画や映画と比べ、絵が圧倒的に少ない。その分、文章から物語を想像し、作者が創った世界に読者の想像の世界がプラスされ、読む人によって自由な受け取り方が生まれるのだ。また、ほんの短い時間でも本を手にした瞬間に物語にのめり込むことができるのだ。それに最後まで読み終えたときの達成感は最高だと思う。私は本が大好きだ。これからもいろいろな本の世界を冒険していきたい。
 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。はっと現実世界へ引き戻された私は、本に栞を挟み、引き出しの奥へしまった。

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