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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

あと一歩の男からの脱出

福岡市立  美和台小学校5年渡邊 陽

 足元には白いスタートライン。ぼくは青い空を見上げてふうっと息をはいた。こわい。自分の心ぞうの音が耳の近くで鳴っている。体全部が固まって、動けない。ぼくは真っすぐ前をみて、スタートの合図を待った。
「あと一歩足りない。」「勝負弱い。」これがぼくの課題だ。去年のマラソン大会、足がちぎれそうなくらいがんばったのに、結果は七位。同じ野球チームの中でも二位。スイミングのテスト、目標タイムに〇・一秒足りずに不合格。たくさん練習してのぞんだ漢字五十問テストも、一問まちがえ九十八点。ぼくの「あと一歩エピソード」は数えるときりがないほどたくさんだ。だけど、もうすぐ最上級生だ。チームでも学校でもみんなを引っぱってかなければならない。あと一歩の男のままでいいんだろうか。勝負強い人になりたい。弱い自分を変えていきたい。ぼくは決心して紙に大きく書いた。
「マラソン大会で一位をとる!!」
 毎日の走るメニューを考えた。がんばり続けることが苦手だったということが、ぼくのあと一歩足りない理由なのではないだろうか。
「もっと前から練習しておけばよかった。」
「いそがしいって言ってさぼった日があったな。」
結果が出るたびに思うことだ。なんども同じ反省をする。でもぼくは変わる。陸上部の兄に相談し、本番の倍の四キロメートル走ることにした。それも毎日だ。
 決めたとおり毎日走った。ゆう便局までの道を往復する。行きは余裕があるのだが、折り返してからがきつい。足が上がらなくなり、ペースがおそくなる。気持ちももう折れかけた。
「歩こうか。」
「ダメだ。」
「少しだけ歩こうか。」
「いやダメだ。」
ぼくの中で二人のぼくがげき論をする。いつも負ける、がんばり屋のぼく。でも今年のぼくはちがう。どうしてもあと一歩の男から卒業したいんだ。弱い心のぼくに勝って、毎日走り続けた。野球でくたくたの日も。雪の日も旅行先でも。走り始めて一週間。
「今日は帰り道も楽だったな。」
また一週間。いつもより速く家に到着した。さらに一週間。毎日一緒に走ってくれている父とおしゃべりをする余裕ができた。そして今では父が追いつけないペースで走っている。一日くらい休んだらと言う母の言葉もきっぱりことわった。ぼくは強くなっている。自分の成長が自分でわかる。続けていくとこんな風に変わるんだ。自分の変化がうれしくて、がんばることがなんだか楽しくなってきた。
「あと一歩足りない。」「勝負弱い。」そんなぼくとはもうちがう。思い出せ、毎日の努力。
「自信をもつんだ。」
すっときん張の糸がほどけていく。
 さあ、スタートだ。ぼくは大きく一歩をふみ出した。

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