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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

RKB毎日放送賞

私の願い

久留米市立  田主丸中学校3年田中 はな

 「カチャ、カチャ。」
思わず、手拍子をしたくなるような楽曲と共に、聞こえる鳴子の音。力強い掛け声。ステージで舞う踊り子たちの心惹かれる踊りに色鮮やかな衣装。そして、満面の笑顔。同じくよさこいをやっている私も目の前の舞台で踊る人たちを見て、わくわくさせられる。
 私がよさこいを始めたのは、小学一年生のときだった。先によさこいをしていた友達に誘われて見学に行き、大人から子どもまで楽しそうに踊る姿、また、迫力のある踊りにかっこよさと憧れを抱いて習うことを決めた。
 しかし、自分に自信のなかった私は、その自信のなさがあだとなり、動き一つ一つが小さく、習い始めてから初めて出た祭りでは、踊る上で一番大切な「笑顔」も全く出ていなかった。どうにかそれを克服するために、母に自分の動画を撮ってもらって自分の動きを確認したり、一部の祭りで行われている、チームの中で笑顔が良かった人がもらえる賞を目指したりするうちに
「踊り上手だったよ。」
「笑顔良かったね。」
と、言われることが多くなった。私にとってそれは最高のほめ言葉で、大きな自信になっていった。
 私が所属しているのは、うきは市のよさこいチームで、主に九州各地のさまざまなお祭りに参加している。その中でも、私たちにとって一番大きなお祭りは「うきはよさこい祭り」だ。九州を拠点に活動するチームが集まり、メイン会場とサブ会場、県道を踊り歩くパレードの三ケ所の会場で演舞を披露する。参加チーム全ての演舞が終了すると、最後のフィナーレとして会場にいる全員の総踊りで「うきはよさこい祭り」は締めくくられる。この総踊りは、とても迫力があり、観客も参加できるので会場にいる全員が一つになって楽しむことができる。
 私たちは、うきは市のホストチームとして会場準備をしたり、うきは市の特産物の梨やぶどうを給水所で、おもてなしとして出したりしている。これは他のチームから毎年好評で私たちも嬉しくなる。
 そして、ホストチームとしてこの祭りで披露する演舞は今まで以上に気合いが入る。年明けから半年間の集大成を発表する場となり、練習には、少しピリッとした雰囲気が漂う。
 しかし、二年前の「うきはよさこい祭り」当日直前。台風の接近により、中止の連絡が入った。毎日自分の踊る姿をイメージしながら過ごしていたさなかのことだった。とにかく悲しくて寂しくてたまらなかった。
 そして「今度こそは」とリベンジを誓った去年。新型コロナウイルスのまん延防止のため、またしても中止が決まった。ぶつけようのない悔しさに溢れた。仕方がないことだと分かっていても、今年はできるだろうという期待を裏切られた気がした。他にも予定されていた祭りは全て中止になり、練習も何ケ月もできない状態が続いた。
 そして、高まる大きな不安とともに迎えた今年。やはり中止だった。なんとなくそんな予感はしていたし、去年よりもショックは小さかった。それでも三回目の中止はつらかった。目に見えないウイルスとの闘いはいつまで続くのだろうか。このままもうずっと開催されないのではないかとさえ思った。さらに、学校行事や部活動の大会の中止や延期が、たて続けに知らされた。
 しかし、この中止や延期によって気付かされたことがある。今、過ごしている日々は、当たり前ではないということだ。今では、コロナ禍の前の日常がとても恋しい。だからこそ、「当たり前の日常」は幸せなことだということを知らされた。
 最近は練習も再開し、今まで開催されていた各地のお祭りが、まだほんの少しずつだが開催されるようになってきた。また、いつか中止や延期になってしまうかもしれないという不安の中に、小さな希望の光は見えてきている。
 私がよさこいをやっていて、嬉しいとき、あたたかい気持ちになるときは、観客の方たちが私たちの踊りに手拍子をしてくださったり、笑顔になってくれたりするときだ。また少し前にデイケアに慰問に行った際に、おじいさん、おばあさんに鳴子を渡すと、少し戸惑いながらも楽しそうに鳴子を鳴らしてくださって、とても幸せな気持ちになった。
 今は、このコロナ禍により、暗い世の中になってしまった。だからこそ、再び各地で祭りが開催され、世の中を明るくしたい。みんなが笑顔になり、たくさんの人を元気づけられるはずだ。
「カチャ、カチャ。」
踊りを披露できるそのときを信じて舞う今日の練習は、いつもよりも鳴子の音がそろっている気がした。

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