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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

日本農業新聞賞

冬の知恵比べ

春日市立  春日野小学校5年松丸 愛

 カラフルに色づいた柿の葉が、はらはらと落ちる時期になると、私のむねは高鳴る。書道の先生の家で、干し柿作りが始まるからだ。十二月に入ると、二階の窓辺にクリスマスのかざりのようにずらっと並ぶ干し柿。その数はたぶん千個以上だ。二週間ほどたっていただくできたての干し柿は、あめ色でやわらかく、食べると自然な甘味が口の中に広がる。私は、この干し柿が大好きなのだ。
 昨年のことだ。先生が、
「自分で干してみるのも楽しいと思うよ。」
と、ひもの両はしに柿をくくりつけたものを何セットかくださった。私はうれしくて、帰宅してすぐにベランダの物干しざおにつるした。
 異変に気付いたのは翌日のことだった。かけておいたはずの干し柿が床に落ちていたのだ。「風で落ちたのかな。」そう思いながら見ると、もう片方の干し柿がない。「これはカラスのしわざにちがいない。」そう確信した私は、カラスに見えないように背の低いタオルかけに干し柿を移動させた。しかし、それもとられてしまった。
「なんで先生のお宅の干し柿は、とられないのだろう。」不思議に思って聞いてみた。
「カラスがとまる場所がないからかな。」
たしかに、うちの物干しざおは太くてとまりやすそうだ。少し前にカラスが器用に電線を歩くところを見ていたので合点がいった。しかし、タオルかけより下にある干し柿をどうやってとったのだろう。この疑問は、ふとしたことから解決した。先生の家にはミカンの木もある。地面から低いところにあるミカンを、二才のお孫さんのために残しておいたら、カラスがジャンプしてつついていたそうなのだ。そうか、私の干し柿も、下からジャンプしてとどく位置にあったからとられたのか。
 そこで今年は作戦を立ててカラスに戦いをいどんだ。作戦その一。ベランダの手すりから手すりへワイヤーをはり、下からとどかない高さにつるす。作戦その二。窓に近いところにフックでつるす。それでも万が一とられたらくやしいので、ためしに数個だけ外に干し、残りは室内につるした。
 しばらくして、「カア」という何とも不快な声がした。そう、敵はエサを目ざとく見つけてやってきたのだ。その時の私には、心配なことが一つあった。敵がとまる場所を作らないようにしたが、空中を飛びながら干し柿をくわえていったらどうしようー。
 その時だった。私の目の前を三つの黒いかげが横切った。敵の口ばしが干し柿に当たったかと思うほど近かった。私はすぐさまベランダへ飛び出した。そして、大事な干し柿の無事を確認し、ほっと息をついた。
 それから一週間。外と内の干し柿を食べ比べてみた。すると、外干しの方が甘味を強く感じた。干し柿には、低温と寒風が欠かせないというし、日光のパワーも見のがせない。自然の恵みを受けるというのは、カラスや虫などの外敵とも共存するということなのだろう。来年は敵も思わず「アッ」いや「カア」とおどろくしかけを作ろう。知恵比べだ。ライバルから守りぬいた干し柿をほおばりながら、私はにんまりした。

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