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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

つばめのおくりもの

北九州市立  熊西中学校2年高松 さくら

 「あっ。帰ってきたよ。」
夏の初め、今年もつばめたちが戸口の小窓をするりと通ってやってきた。今はすっかり住宅地へと変わってしまったつばめたちのふるさと。しかし、十年ほど前までは、若草色の稲がぴんと伸びた田が目の前いっぱいに広がっていたのだ。さまざまな虫たちが集まり、小鳥が空高くに、たえずさえずっていた。そんな幼い頃の記憶をつばめは私に思い出させる。
 おばさんの家には、土間の天井につばめの巣が四つある。四つとも見るからに古いが頑丈なようで、私が生まれるよりもずっと前から変わらずそこにある。親鳥の帰りを待つ愛らしい五羽のひなたちを見ていると、母が、
「もう何代目のつばめかねぇ。この四つの巣はお母さんがちっちゃいときからあったんよ。」
と話した。それからほほえんで、懐かしそうに巣を見上げた。それを聞いて私は、つばめへの愛と四つの巣の歴史を感じるとともに、きっとつばめの巣は、今まで何十羽もの小さな命たちの成長を、優しく守ってきたのだろうなと思った。そして、つばめたちが何十年もの間、毎年この場所へ帰ってくることに疑問を感じた。そこで、私はつばめの旅について調べてみた。
 つばめの生態についてはまだ分かっていないことが多いという。春から夏を日本で過ごしたつばめは、九月中旬から十月の終わりになると、餌となる昆虫が少なくなる日本を後にして、フィリピンやマレーシアなどの、温暖な南の国へ移動するそうだ。その距離、片道およそ三千~五千キロメートル。つばめたちはものすごく長い旅をして、夏になると必ずこの家へ戻ってくるのだ。
 一昨年もひなたちが親つばめから餌をもらう様子を観察した。中学生になって部活動や塾が始まり、つばめたちを見に行くことがなかなかできずにいた。そんなある日、おばさんが、
「今年はこれが最後の巣立ちになるから見においで。」
と知らせてくれた。つばめはひと夏に二度産卵し、子育てをする。その二度目の子育ても終わりに近づいて、ひなたちの巣立ちが近いということを知り、私はおばさんの家へ急いだ。
 大きく育ったひなたちは、所狭しと、巣の中で体を寄せ合っていた。そして、ちょこちょこっと小さな頭を巣から出したりひっこめたりしながら、親つばめの帰りを待っていた。しばらくすると親つばめが帰ってきた。黒く美しい羽根を左右にまっすぐ広げ、いとも簡単に土間の天井をくるりと一周した。それからお腹を空かせたひなたちの黄色く大きな口に、順番に餌を与えていく。
「ピーピーピーピー。」
ひなたちは、次は私、次は私、と親つばめに、これ以上開かないほど口を大きく開け、餌をもらおうと必死に頑張る。なんて可愛いのだろう。私はこの光景を見るのが一番好きだ。親つばめは餌を与えると、またすぐに餌となる昆虫を探しに外へ出ていく。自然が減ってしまったこの町で、昆虫を探すのも大変だろうなと、親つばめの苦労を思った。
 おばさんは、この時期になると毎年午前四時に起きる。そして、入り口の戸の小さな小さな小窓を、つばめの親がひなたちの元へ帰ってくることができるように開けておくのだ。しかし、年を重ね、この日課がだんだんと大変になってきたのだという。
「今年がもう最後だと思うからよく見ていきね。」
と、私のそばで優しく声をかけてくれた。私はとても寂しかった。しかし、おばさんは長い間つばめを守ってきたのだから、もう充分なのだ。大事な体を壊してはいけない。そう思うと、おばさんへの感謝の気持ちがさらに溢れてきた。古く、焦げ茶色になった巣は、その年月を物語っていた。
 やがて冬になり、祖母から嬉しい知らせがあった。
「おばさん、やっぱり来年もつばめを迎えるそうだよ。」
何十年とともに過ごしてきたつばめが、突然来なくなるのは、やはり寂しいと、来年の春もつばめを迎え入れることを決めたのだという。おばさんの決意から、おばさんとつばめとの間に育まれてきた、形にならない大切なものがあるのを感じた。
 ところで、古くからつばめの巣があるところには幸せが訪れるといわれている。私はこの春、新しい巣を発見した。
 私の家の近くにパン屋がある。昔ながらの手作りの菓子パンや惣菜パンがずらりと並ぶ人気の店だ。新装開店したそのパン屋の軒下に肌色の出来たばかりのつばめの巣をみつけた。私はそのとき、思わず笑顔になった。この巣にもやがてひながかえり、人々の心を和ませるのだろう。そして、人と人との心をつなげるきっかけが生まれるかもしれない。ここにもたくさんの幸せが訪れるはずだ。
 おばさんとつばめとの長い思い出の日々と、パン屋の軒下で始まった新しいつばめの物語。私はつばめが運んでくる「幸せ」とは「絆」ではないかと思った。私も、家族や友達、お世話になっている先生方との絆や、これからの新たな出会いを大切にしていきたいと心に決めた。

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