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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

旅立ち

私立  西南学院小学校6年鯵坂 龍

 年始の夕方、二年ぶりに会えた鹿児島の祖父母からウォーキングに誘われた。ぼくはウォーキングに興味はあったが、自ら進んで行ってみたいとは思ってなかった。
「今日は来てるかなあ、龍くんに会わせたいなあ。」
と祖母の独り言が聞こえる。祖父はしっかり防寒をして、遠くの山や田んぼの方を見てぼくを待っている。
「準備できたよ、行こう!」
とぼくの発声で、ウォーキングはスタートした。冷たい風の中、田舎の堤防や田んぼのあぜ道に人はいない。祖父母とぼくと母だけだった。コロナ禍でマスク生活が当たり前の毎日、外の空気はいつもマスク越し。だけど、広い自然の中、家族以外は誰もいないので思いきってマスクをはずしてみた。ぼくは、空気がこんなにおいしいものなんだとしみじみ感じた。深く深呼吸をしてみた。澄んだ冷たい空気がゆっくりとぼくの中に入ってくる。自然の中で一瞬時が止まったかのように、体全体で自然を感じた。辺りを見渡すと、遠くに煙がみえ、かすかに野焼きのにおいがする。空は真っ青で、くじらの形をした雲が見えた。
 その時、祖父が小さな声で
「あっ、来てた。三羽もいるよ。」
とぼくに話しかけた。祖父の目線の先をみると、野生のツル三羽がじっとぼくらの方を見ていた。ぼくはドキドキした。約二十メートル先に野生のツルがいる。ぼくはツルが逃げないように、とっさに動きを止めて息をひそめた。ツルもぼく達もにらめっこ状態。その時、祖父がこの三羽のツルについて静かに語り始めた。越冬のためにシベリアから鹿児島県の出水に渡来し、三月頃まで滞留する。そのうちの三羽が出水ではなく川内に舞いおりたと教えてくれた。「へそ曲がりなツルもいるもんだ。」と祖父がつぶやいたのを思い出した。
 しばらくすると、ツル三羽は何事もなかったかのように、田んぼのミミズや稲刈り後の米粒を食べ始めた。ぼくは嬉しかった。野生のツルを目の前でじっくり見ることができたことがどれだけ貴重なことか。このツルがシベリアからはるばる鹿児島へ毎年やってくることの驚きと、そのツルとこうして目の前で出会えた奇跡にとても感銘を受けた。ツルを横目で見ながら、静かにウォーキングを始めた。ウォーキング前の祖父母の言葉を思い出した。「このことか。」ぼくはこんな貴重な経験をさせてもらった祖父母に感謝の気持ちでいっぱいになった。
 ちょうど夕方五時、役場のスピーカーから夕焼け小焼けのメロディーが流れた時、三羽のツルが飛び立った。横一列に並んだ三羽のツルが羽根を広げ、空高く飛び立つ姿を見た時、これからのぼくと照らし合わせた。四月から中学生になり新たな場所で開拓していくぼく。この三羽のツルのように空高く、大きく羽根を広げ飛び立つことができるよう、自分の力を信じ夢に向かって大きく進んでいけるようぼくは静かに誓った。

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