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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

優しさピーマン

国立大学法人  福岡教育大学附属福岡小学校5年小山 一織

 夏になると、小さな不ぞろいなピーマンや色がまばらなミニトマト、大きく大きく育ったきゅうりが僕の家に届く。近くに住んでいるおじいちゃんが庭で作った最高けっ作の野菜達だ。お母さんは、ピーマンをいためて朝食に出してくれる。僕は、ピーマンが苦手だから少し困ってしまうのだけど、おじいちゃんのピーマンはやわらかくて、優しい味がする。
 でも、今年の夏はいつもの夏とはちがった。おじいちゃんの野菜は届かなかった。おじいちゃんの体に病気が見つかったからだった。夏前におじいちゃんに会った時、
「今年は、野菜を作らないよ。入院したら、お世話ができなくなるからね。」
と言った。僕は、心の中に大きな石がどんと乗っかったみたいな気持ちになった。
「なんで?作ればいいじゃん。そんなに長く入院するの?」
僕はピーマンが苦手なのに、少しムキになって言った。苦手なピーマンが届かないんだから喜べばいいのに、なんでそんなことを言ってしまったのか分からなかった。
「入院がどうなるか分からないからね。きちんと育てられなかったらいけないでしょ。」
おじいちゃんはすごく当たり前のことを言ったけれど、僕はさみしかった。
 おじいちゃんが言った通り、夏に僕の家に形がバラバラの野菜が届くことはなかった。おじいちゃんの家の庭は、少しさみしくなった。お母さんはいつものように、買ってきたピーマンで朝食を作ってくれたけど、僕はなんとなく食べたくなくて、ちょっと皿のすみっこによけたりした。
 秋になって、おじいちゃんは退院して、元気になった。庭の手入れも、少しずつできるようになったみたいだった。庭に咲いたバラの花を切ってくれるおじいちゃんはうれしそうで、その姿を見て、おじいちゃんのピーマンが優しい味がする理由が分かった気がした。
 おじいちゃんは、きっと一生けん命に野菜を育てているのだと思う。どんなに小さくても、不ぞろいでも、大切に育てている。だから、自分が責任をもてないなら今年は作らないと決めたのだ。作らないこともおじいちゃんの優しさだったのだと分かった。おじいちゃんのピーマンの味は、優しさの味。おじいちゃんが作り続ける限り、きっとずっと同じ優しい味が続くと思う。
 僕は、来年の夏を楽しみにしている。きっと、おじいちゃんが作った沢山の野菜が家に届くだろう。そして僕は、
「ピーマン苦手なんだよなあ。」
と言いながら、優しい味のピーマンを、むしゃむしゃ食べるんだ。おじいちゃんの優しい気持ちを、口いっぱいにほおばって。

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