ホーム > 小・中学生作文コンクール > 過去の受賞作品

「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

「罪深いメリー・クリスマス」

北九州市  福岡教育大学附属小倉中学校2年高山 乃綾

 塾の後、課題に取り組んでいた私の耳に、母の懐かしいセリフが届いてきました。

 「ほら、早くサンタさんに手紙書きなさい」

 ああ、もうそんな時期か、とカレンダーに目をやると、たしかにあと二日もありません。もちろんですがその言葉は私にかけられたのではなく、三つ下の妹にでした。妹は勢いよく起き上がると、早速、紙と鉛筆を取り出し、何かを書き始めました。そんな妹の姿を見て、二つ上の二番目の姉が一言、

 「策士め……」

 そうです。妹は既にサンタの存在を知っていました。にも関わらず、目の前でわざとらしく演技をしているのです。けれど、私は姉にも、妹にも放つ言葉をもっていません。

 なぜなら、私が妹に、サンタのことを喋ってしまったからなのです。

 そのときも、ちょうどクリスマスが差しかかった頃でした。当時小学六年生だった私は、妹と大ゲンカをし、やけになって言ってしまいました。

 「どうせサンタなんて、お父さんとお母さんのことなんだから、プレゼントだけもらいなさいよ!」

 その瞬間、一気に家の空気が凍りつくのを感じました。反対に、私の顔はみるみる赤く染まり、心臓の音が聞こえるくらい、胸が高鳴りました。その後、私は裏で、母にさんざんに叱られました。曰く、人の夢を奪うなんて、最低の行為だ、と。

 その年のクリスマスの朝、妹はハマーのラジコンをもらっていました。そして、私達姉三人は、くつ下いっぱいのうまい棒。妹は、あの私の言葉を聞いていなかったかのように、楽しそうに庭で遊んでいました。

 あれから二年。妹は、時折、母の顔を覗き込むようにして尋ねます。

「サンタは本当にいるよね?」

 そんなとき、母は決まって、

「信じる人には、必ずサンタはやってくるよ」

と言います。何度も聞くその会話のたび、私はちくりと心が締めつけられます。申し訳ないことをした、と。

 妹のことです。きっと、学校の友達同士で、サンタはいないということに気づいているでしょう。けれども、そうまでして、未だに演技を続けているのは、きっと、さみしいからなのだと思います。四人姉妹の末っ子である妹は、一番に物もお金も、そして親の愛情も注いではもらっていません。やはりそこは年長の姉が優遇されます。だから妹は、誕生日やクリスマス、お正月といった年中行事で、少しでも自分のことを見てほしいのです。よく、兄妹のうち、下の方はわがままになると言われますが、それは暴れたり、反抗を示したりすることでしか、愛情を確認する術を知らないからだと思います。そんな妹の、大切な大切な「クリスマス」を奪ってしまったのだということに、あの言葉を言ってから二年、ようやく私は気づきました。

 思い返してみれば、今はプラスチックの葉っぱに、電球がくっついているだけにしか見えないツリーも、小さい時には、飾ってくれるだけで心が踊りました。前日の夜、はやる気持ちを必死に抑えながら、「サンタへ」と宛てた手紙を書いたり、その横に焼いたクッキーを添えたりもしました。当日、ゆっくりと階下へ降りるときも、目を見開いて、慎重に、ツリーの下を見るのです。薄暗く、ぼんやりとしたリビングに、ツリーとプレゼントだけが、いやに明るく、華やいで見えた時の感動は、筆舌に尽くしがたいものでした。

 今や、サンタの存在も、この世の様々なことも知った私は、嬉しさ反面、もうあんなことに素直には喜べないのだという、一抹のさびしさを感じています。そして、妹から子供の時だけ味わえる「幸せ」を、少なからず奪ってしまったことに対して、後ろめたさを。

 前日の夜、布団の中で、ふと気になって、妹に尋ねました。

 「まだ、サンタのこと、信じてる?」

 すぐさま、うんと妹は答えました。

 「そっか」

 それ以上、何も言葉は出てきませんでした。外では、父の車の音が、微かに響いてきます。もう、プレゼントをもらうことのない私ですが、せめて、妹の希望どおりの物がありますように、と心の中で願いつつ、私は静かに目を閉じました。

ページ上へ