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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

私の『スペシャル鍋』作り

北九州市  福岡教育大学附属小倉中学校1年山口 歩乃果

 「折角おじいちゃんが手間暇かけて作ったんだから、残さず食べなさい。」

 野菜を残した私を、母が叱った。

 家から車で十分位の所に住んでいる祖父は、趣味の家庭菜園で野菜を作っている。

 私の家の食卓には、当然のように祖父の作った野菜が並んでいる。ありがたみもなく、ただ食べるだけの日々だった。

『手間暇かける。』

 そういえば、私は、野菜がどんなふうに、どのくらいの時間をかけて育ち、私達の食卓にのぼっているのか、考えたこともなかった。

『私も野菜、作ってみようかな?その野菜で鍋作りできたら楽しいかも……』

 そんな軽い気持ちで、祖父に相談してみた。

「じゃあ、夏休みから始めよう。」

「えっ。」

祖父の言葉に、私は耳を疑った。

『鍋の季節は冬。なのに、夏から始めるの。』

 驚いている私に、祖父は、

「鍋の定番の野菜といったら、白菜だろ? 白菜は夏には、苗を植えるんだよ。」

 私は本当に驚いた。そんなに時間がかかるとは、思っていなかったからだ。

 夏休みに入り、祖父と私の白菜作りが始まった。

 私は祖父と一緒に、わくわくしながら、近くの農事センターへ出掛けた。いつも食べている白菜からは想像もできないほどの、小さな可愛い苗を買って帰り、畑に大切に植えた。

 少しずつ大きくなる白菜を見るのが、楽しみで嬉しかったが、炎天下、肥料をやったり、じょうろで水をやったりするのは、決して楽なことではなかった。

 しばらくすると、さらに大変な作業が待っていた。なんとピンセットで青虫をとらないといけないのだ。初めて祖父のつかみ上げた青虫を見た私は、

「ギャーッ。」

と叫び声を上げてしまった。はっきり言って気持ち悪い。私は、あまり虫が好きではない。叫び回り、手伝いにならない私に、

「二~三日に一回は必ずとってやらないと、穴だらけの白菜になっちゃうんだよ。」

と、笑いながら祖父は言った。

 その作業は、涼しくなるまで続いた。

「鍋にもう一品加えてみようか。」

そう言われて、青首大根も作ることになった。こちらは種から育てることにした。こんな小さな種が大根になるなんてと、ここでも驚いた。

 一つの穴に三粒ずつ小さな種をまいていく。

『立派な美味しい大根になってね。』

心の中で呟いた。

 二週間位で、可愛い双葉が出た。間引きをした後、肥料や水をやり、虫にも気を付けて、大切に育てた。

 すくすく育った野菜たち。土の上にひょっこり少し顔を出した大根と大きく育った白菜を見た祖父は、

「よし。収穫しよう。」

と言った。やったー。やっと収穫だ。

 まずは、カマで白菜の根元を切り取った。これが、なかなか難しい。ずっしり重い白菜。小さな赤ちゃんのようだった苗を思い出し、嬉しくなった。

 次は大根。葉の根元を持って、ゆっくりと引っ張った。

「ずずずっ。」

黒い土の中から、真っ白な太い大根が現れた。あんな小さな種が、こんな立派な大根になったなんて。なんだか野菜が愛しかった。

「よく頑張ったね。」

 祖父が言った。頑張ったと言われるほど、世話をしてない私はちょっと恥ずかしくなり、

「ありがとう。おじいちゃんのお陰だよ。」

と俯きながら、お礼を言った。

 さあ、いよいよ鍋作りだ。他の具材を買いに、近くのスーパーへ出掛けた。

 いつものとおり野菜売り場には、たくさんの野菜が並んでいた。いつも簡単に手に取り、買って帰っていた野菜たち。ここに並ぶまでに、農家の方々が時間と愛情をかけて育てたものなのだ。そう思うと、いつもと違って、なんだか輝いて見えた。

 今回、軽い気持ちで始めた『スペシャル鍋作り』は、私にとって、本当に良い経験となった。手間暇かけた体験と収穫の感動が、感謝の気持ちに繋がった。この気持ちは、これからも変わらないと思う。

 とはいえ、厚かましいが、私の野菜は世界一に思えた。スーパーで買った具材と一緒に煮込まれた私の白菜と大根は、本当に美味しかった。私は、笑顔で鍋を囲む家族の前で、これまでの野菜作りについて一人で話し続けた。

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