2016年度 第52回 受賞作品
福岡県教育委員会賞
たこの三兄弟
北九州市 福岡教育大学附属小倉小学校3年守中 隆禮
「おっ、たこあげかい。お正月らしくて風流だね。」
犬のさんぽをしているおじさんたちが、めずらしい物を見ているかのように話していた。
ぼくにとっては、とても風流なんていえるじょうきょうではなかった。弟のたこは、もうずいぶん前から、晴れた空をゆうがに飛んでいる。ぼくはというと、たこあげと言うより、たこひきずりばかりをしていた。
「きょ年は、とても上手に飛ばせることが出来て、たこ糸が 足りない位だったのに、どうして。」
とあせる気持ちばかりが強くなっていた。ただ何も考えずに、たこをむりやりひっぱっていると、しまいには木にひっかけてしまった。なみだが出そうなのをこらえた。木の上で風にあおられ泳いでいるたこを見て、ようやく思い出した。たこは風がふいている方向に、立ち向かって飛んでいることを。ぼくは、人指し指につばをつけて、手を高く上げた。
「こっちの方から強い風がふいている。風に向かって走りぬ けるぞ。」
たこはいっきに空にかけ上がっていった。ぼくは、すぐにたこの方へふり返り、糸を送り出しながら、あおりながら、風を感じながら、指先に気持ちをこめて集中させた。たこはみるみる小さくなっていき、お正月の青空にうかぶ雲にならんで、とけこんでいった。
「お兄ちゃんすごいね。」
気がつけば、弟がにこにこしながら、たこをあげていた。そのとなりには、お姉ちゃんのたこもならんでいた。たこの色は、みんなちがうけれど、夕やけ空に赤くそまって、ゆらゆらと飛んでいた。みんなで、
「真っ赤なたこの三兄弟だね。」
と、大きな声で笑った。今年も、楽しい一年になるような、そんな気がした。