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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

福岡県知事賞

明日はどんな風がふく

北九州市立  足立小学校6年小田 孝太朗

 ぼくは変われたのか。
 今日は、新チームになって初めての駅伝の大会だ。緊張で胸がはれつしそうだったが、ちょっとした事件が起きた。たすきを忘れてしまったのだ。ここは市外、すぐに取りに帰れる場所ではない。みんなの前だから笑顔の母。しかし、あれはかなり怒っている顔なのだ。誰もいなければ、怪獣のようにガーガー怒っているだろう。しかし、何とか母が開始前にたすきを持ってきてくれた。ドタバタしての、新チーム初の駅伝大会の号砲が鳴った。
 一区の選手が一斉にスタートした。さかのぼれば、四ヶ月近くになる。新チームになって、ぼくはキャプテンに任命された。ランも精神力も声も一番がんばらないとつとまらない。三ヶ月程前、ぼくは新チームになって、初めて練習中に涙が出た。レースをうまく進められないことが悔しくて、コーチにも叱られて、
「孝太朗、キャプテン交代するか。」
と言われた。その瞬間、唇から血が出るくらい歯をくいしばった。泣いて、泣いて、でもその時決めたのだ。もう絶対、コーチやみんなの前で涙を見せないと。次の練習から、ぼくは怒られても、タイムが悪くても泣かず、ただ前を向いて必死に走り続けた。空から陸上の神様が応援してくれていたのか、それからぐんぐんタイムが伸びていった。
 そんなことを振り返っていると、五区の選手の姿が目に入った。順位は四位。ぼくは、最終区の六区をこれから走る。風が強い上に、向かい風となるコースではあるが、ぼくは、
「任せて。全員抜いてくる。」
と五区の選手にそう声をかけて、たすきを受け取り、ただただ前の選手の背中を追いかけて夢中で走った。競技場に三位で戻ってきた。自分の中にある力を全て出した。ラストの直線で一人抜き、二位でゴールした。目標の優勝に、あと三秒届かなかった。ぼくが、あと三秒速く走ればよかった。一番悔しかったのは、ぼくだ。みんな泣いていた。でも、ぼくはみんなを励ました。無愛想とか無神経と、泣いている選手は思ったかもしれない。でもぼくは、キャプテンらしく今日の大会を終えた。
 スタンドに、母の姿が見えた。たすきのことで叱られると思い、知らんぷりしていたが、直後に、母がぼくのところへ駆け寄ってきた。怪獣になると思っていた母が泣いていた。悔しいはずなのに、みんなをなぐさめる姿、キャプテンの背中に近づいているぼくの成長した姿が、たまらなく嬉しかったらしい。ぼくは、それからトイレに行った。泣かないと決めたあの日から、たまっていた涙を全部流した。ぼくの腫れた目を見て母が、
「明日は明日の風が吹くよ。明日はどんな風が吹くのかな。 楽しみだね。」
と言った。母の言葉と涙で、ぼくは一皮むけた気がする。
 ぼくは変われているよ。自分にそう言い聞かせた。

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