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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2020年度 第56回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

空の上から

篠栗町立  篠栗北中学校2年富山 陽菜

 「人は死ぬ直前まで耳が聞こえている」
この言葉を聞いたことはあるだろうか。私はこの言葉を聞いて、あの時に戻りたいと思った。
 今から八年ほど前、私は父の仕事の関係でアメリカに行くことになった。急に決まったことでとてもびっくりした。幼稚園の友達とお別れをすることはとても悲しかったけれど、初めての飛行機、初めての外国はとても楽しみでわくわくしていた。アメリカには三年間滞在する予定だった。
 アメリカでの生活は想像以上のものだった。町並みや食べ物、家の造りも日本とは全く違うものだった。ここからアメリカでの新しい生活がスタートした。
 私は、英語が話せなかったから日本人学校に通っていた。学校の友達も仲良くしてくれて、すぐに馴染むことができた。そんな日々が毎日続き、とても楽しい生活が送れていた。けれど、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。
 アメリカに滞在して約一年たった時だ。ある日父がひどいぜんそくを起こしたのだ。寝ることができないくらいひどくて、毎日きつそうで、苦しそうだった。それが毎日続いたため、急遽一年で帰国することになった。
 日本に帰国してから、病院に行った。診察の結果、がんだと分かった。私はまだ小さかったから、がんという病気は分からなかったけれど、とてもきつい病気だとは分かった。
 それから、父のつらい日々が始まった。ぜんそくやだるさでとてもきつそうだった。それでも父は、私たちにはつらい顔一つ見せずに「大丈夫」と言っていた。今それを考えると、私たちに心配かけないようにしてくれていたのだと思う。もっと私たちを頼ってほしかった。どんなにきつく、つらくても父は自分の病気と向き合い、病気と戦っていた。でも、その努力は報われなかった。
 ある日突然、父は帰らぬ人となった。私はすぐに状況を理解できなかった。それでも私はたくさん泣いた。亡くなった父の手は、とても冷たかった。
 私は後悔している。あの日に戻りたいと思っている。それは、「人は死ぬ直前まで耳が聞こえている」この言葉を聞いてからだ。あの時父に、「ありがとう」と伝えればよかった。もっと「大好き」と言えばよかった。「お父さん」と呼べばよかった。そう思った。
 私は、もう後悔したくない。だから大切な人に、今伝えるべきことを伝えよう。私は、感謝を伝えられずに後悔した。そのことから感謝を伝えることの大切さを知った。その学びから、どんなに些細なことでもいいから、感謝の言葉を伝えようと思った。
 まずは、母に感謝を伝えたい。私がしたいと言った部活動を応援してくれたり、毎日おいしいご飯を作ってくれたりすることに。母一人で、とてもたいへんなのに、毎日私たちのために仕事を頑張ってくれてありがとう。
 これから、たいへんなことがいっぱいあるだろう。だから、今まで母に支えられた分、これからは私が母を支える。お手伝いをしたり、マッサージをしたり。私にもできることがたくさんある。「あれができるのではないか」と考えるだけでなく、それを実行する。そのことを忘れないようにしよう。
 この文を読んでいる人に伝えよう。後悔しないでほしい。大切な人に、今伝えるべきことを伝えよう。今私たちが、あたり前に生きていられるのは、誰のおかげだろうか。もちろん、お父さんやお母さんのおかげだ。そのことに感謝を伝えられているだろうか。だから今、「ありがとう」の言葉を伝えよう。
 父がいなくなってから約七年。あれから叶えることのできない願いがたくさんある。家族で旅行に行くこと、二人でお出かけすること、たくさん話すこと。そして一番叶えたかったのは、バレーの試合を見に来てほしかったことだ。
 これらのたくさんの願いは、もう叶えられない。あの日に戻りたいという願いも叶えられない。
 でも、私は今、前を向いている。空の上から父が見守ってくれているから。「ありがとう」や「大好き」の言葉も届いていると思うから。だから、私は頑張れる。つらいことも乗り越えることができる。
 そして私は思う。父の分まで頑張って生きようと。上を向いて、前に進んでいく。

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