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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2019年度 第55回 受賞作品

西日本新聞社賞

涙の味の白ご飯

久留米市立  田主丸中学校2年日高 妃咲

 『千と千尋の神隠し』という映画の中で、主人公の十歳の少女千尋が、泣きながらおにぎりを食べる場面があります。私は小さい頃から、この映画を何度か見ていて、見る度にこの画面での感想が違います。まだ小学生になる前に初めて見たときには、
「なぜ、おにぎりを食べながら泣いているのかな。」
と疑問に思っていました。それから少し大きくなって、小学生の頃に見たときは、
「お腹が空いていたから、おにぎりを食べることができて、うれし泣きをしているのだろう。」
と感じました。そして今の私は、ある経験をしたことで、これまでとは違った感想を持っています。
 私は、中学一年生のときの夏休みに、オーストラリアへホームステイに行きました。私にとって初めての海外で、約二週間の滞在でした。オーストラリアへ出発する前は、楽しみな気持ちよりも不安のほうが大きくて、私はとても緊張していました。しかし、オーストラリアに到着して、やさしくて素敵なホストファミリーに温かく迎えられ、私の不安な気持ちや緊張は、少し和らぎました。それから二週間、ホストファミリーとたくさん交流して、とても仲良くなって、本当に楽しむことができました。心から行って良かったと思います。
 しかし、そうは言っても、オーストラリアでの生活は、日本にいるときとは様々なことが違っていて、大変だと感じることが多くありました。例えば、もちろん日本語は通じないので、英語で会話をしなければなりません。それから、オーストラリアは水不足が深刻なので、お風呂や洗濯は毎日ではありません。また大きなヘビやトカゲがその辺りにいるので、見かけたときは本当に怖い思いをしました。
 そして私が、日本との違いを一番強く感じたのが、食事でした。オーストラリアは、毎日三食全て洋食です。朝は、パンと卵料理とサラダを食べます。卵は、ホストファミリーが飼っているニワトリが産んだものです。私も毎日、ニワトリの世話や卵採りを手伝いました。昼は、私は語学学校に行くので、ホストマザーがお弁当を作ってくれます。中身は、フルーツ・野菜・パン・チーズ・お菓子などで、日本のお弁当とは全然違っていて、とても驚きました。夜は、毎日お肉です。私は、カンガルーや羊の肉を初めて食べました。最初は戸惑ったけれど、食べてみるとどちらのお肉もおいしかったです。
 このような食事が、二週間毎日三食続きました。初めは、珍しくて、おしゃれで豪華だと感じて、私はオーストラリアの食事を楽しんでいました。しかし、五日ほどで飽きてしまい、残りの一週間以上は、ずっと和食が恋しかったです。オーストラリアでの生活は色々と大変だったけれど、私は食事の違いが一番辛く感じました。
 だから、私が帰国して一番にしたことは、和食を食べることでした。祖母が、白ご飯とみそ汁と卵焼きを作ってくれました。いよいよ、二週間ぶりの和食です。まずは、念願の白ご飯を食べます。ああ、何というおいしさでしょう。とてもなつかしくて、幸せが広がります。次に、みそ汁を飲みます。久しぶりのみそとダシが、体中にしみ渡るようです。そして、口の中で白ご飯とみそ汁が混ざり、感動のおいしさになります。日本人で良かった、日本に生まれて良かったと、本当に心から感じました。
 すると、私の両目から涙があふれてきました。食事中に泣き出してしまうことは、生まれて初めての経験だったので、とてもびっくりして頭が混乱しました。しかし、心では何となく涙の意味がわかりました。悲しいときの涙ではない。うれし涙と感動の涙が混ざったような涙。たくさん我慢した後に、安心してでる涙。とてもとても温かい涙でした。私はこの涙と、少し涙の味になってしまった白ご飯の味を、きっと一生忘れないだろうと思います。
 それからしばらくして、私はまた『千と千尋の神隠し』を見る機会がありました。千尋がおにぎりを食べ始めて、泣き出します。私はこのとき、千尋の気持ちがわかると思いました。私が二週間ぶりに和食を食べたときと、同じような涙だと感じたからです。さらに、このタイミングでこの映画を見て、気付かされたことがあります。千尋が食べたおにぎりは、このときの唯一の千尋の味方である、ハクが作ってくれたものでした。そして、そのハクが隣にいてくれています。千尋は、ハクの愛情や、側にいてくれる安心感もあって泣いたのだろうと思います。あの日、私が食べながら泣いたのも、料理してくれた祖母の愛情や、一緒に食卓を囲んでいた大好きな家族への安心感があったからこそ、あんなに温かい涙が出たのだと私は映画を見て気付きました。私にとって、涙の味の白ご飯は、ますます大切な宝物の記憶になりました。

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