2019年度 第55回 受賞作品
西日本新聞社賞
心をつなぐ年賀状
国立大学法人 福岡教育大学附属福岡小学校5年小川 祐徳
毎年、届いた年賀状をあて名別に仕分ける作業は、ぼくの家のお正月の風物詩だ。束になった葉書の中から、数少ないぼくあての年賀状を見つけるのは、当たりくじを引く感覚で楽しい。
「元気にしてますか。今年は小川君も六年生だね。目標に向かってがんばれ。」
ぼくが一年生の時に、お世話係として一年間担当してくれていた、当時六年生だったお兄ちゃんからだ。県外の中学校に進学したためなかなか会うことはできず、いつもはげましのメッセージを送ってくれるこのやり取りが年一回の楽しみとなっている。
「ゆうと君、お元気ですか。埼玉三年目です。中学受験する予定でがんばっています。」
幼稚園の時からの友達だ。関東に引っ越してからは会えなくなった。毎年お互いの近況報告をし合う年賀状は、遠くにいる友達を身近に感じるひと時を作ってくれている。
ぼくに届く年賀状は数多くはないけれど、どれもうれしくなるものばかりだ。特に、日ごろ会えない相手からの年賀状は、ぼくを忘れないでいてくれたんだと感じ、心が温まる思いになる。ぼくにとって、年賀状は会えない相手との心のかけ橋となっている。
しかし、先日、「年賀状の発売枚数は、二〇〇三年をピークに減少している」という記事を目にした。近年、年賀状を取り巻くさまざまな環境が変化してきていることが要因にあるそうだ。その変化はぼくの身近な周囲でも感じることができる。
一つは「年賀状終活」といって、高齢になり、年賀状の管理に負担を感じて出すことをやめる人が増えてきていることだそうだ。祖父母の家にも「来年度から新年のごあいさつを遠りょします」といった葉書が届いたそうで、「こちらからも、もう出さない方がいいのかな」と悩んでいた。
もう一つは、SNSの普及が大きく関係しているそうだ。数か月前からスマホを持ち始めた姉も、今年は新年が明けると同時に、友達とメッセージを交換し合っていた。リアルタイムでやり取りができることに、より楽しさと便利さを感じるんだと思う。
しかし、このような変化の中で、年賀状の存在がうすれていくとしたら、それは少しさみしいことだとぼくは感じた。年賀状はSNSでは省かれる手間と時間がかけられていて、もらうだけでも相手の気持ちの温かさを感じることができるからだ。そしてなかなか会えない相手とでも連絡がとれ、人とのつながりを肌で実感することができるからだ。
ぼくはまだ年賀状をやり取りしている人数も少なく、SNSも利用してないが、これからぼく自身の事情も世の中の環境もどんどん変わっていくかもしれない。そんな中でも、年賀状の魅力でもある心の通じ合いや、人とのつながりは、ずっと大切にしていきたいと思った。