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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2019年度 第55回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

またこの場所で

久留米市立  田主丸中学校3年前田 心音

 「おかえり、心音。」
仲間、顧問の先生、保護者の方々の歓迎の声を胸に、私は再びコートに立ち、ボールを追いかけた。絶対に諦めない、逃げない、負けない、そんな強い心を持って。周りから見ればただの練習試合だったかもしれない。しかし、私にとってその一点、一試合が忘れられないものとなった。
 小学五年生からバレーボールを始めたが、体調不良が続き、思うようにバレーができなかった私は、今度こそ思いっきりバレーをしたいという希望を持ち、中学校でもバレー部に入部した。一年生の二学期までは同学年の仲間たちと切磋琢磨しあいながら大会に向けて一生懸命練習に励んでいた。きつくて心が折れそうになっても、コートに立ってプレーをしたいという気持ちがあったから諦めずに毎日を過ごせていた。しかし、新人戦が終わり、少し経った頃、私は再び体調不良が続き部活動どころか学校にすら行けなくなってしまった。悔しくてたまらなかった。学校に行きたくても、部活動をしたくても体がついてこず、苦しい日々が続いた。試合に出ることができずマネージャーや応援だけをしに大会へ行くこともあった。仲間がユニフォームを着てコートでプレーをしている中、私は独りジャージを着て、マスクを付け、仲間が脱ぎ捨てたジャージを畳みながらベンチで応援をした。私を含め七人だったため、交代がいない状態でプレーをしている仲間を見て本当に申し訳なかったし、コートに立てない自分が情けなかった。体調が良くなり、部活動へ行っても休んでいた分の遅れが取り戻せず、もっと自分が嫌になっていくばかりだった。二年生になっても同じで体調が悪くなれば一週間ほど部活動を休み、良くなっても練習についていけない、その繰り返しだった。そんな私に追い討ちをかけるかのような出来事が起こった。それは熱中症。初めての体験だった。心身ともにボロボロだった私は、その日からバレーを避けるようになってしまった。自分はバレー部に必要なのか、自問自答をしては、もっと部活動に行けなくなった。そしてついに、私は耐えられなくなりこの言葉を言ってしまった。
「バレー辞めたい。」
親からも先生からも止められた。そして質問責めにあった。心の中にあったバレーへの熱意が完全に消えてしまっていた私には辞める以外の決断ができなかった。自分で決めたことなのに心が空っぽになった。
「なんで辞めたと?」
周りからのこの言葉が何も入っていない心をかき混ぜてくる。辛かった、苦しかった。
 三学期になっても相変わらず、バレー部のみんな、顧問の先生は私に優しく接してくれた。でも私にはそれが余計に重荷になった。毎日、帰りの会が終わると走って向かっていた体育館を歩いて通り過ぎ、下駄箱へ向かう。体育館からはバレー部の声と電子タイマーの音、ボールの跳ねる振動が伝わってくる。この道を通らずとも下駄箱には行けるのに。
 空白の七か月を過ごしている間、私が体調を崩すことはなかった。 そして私は三年生になった。去年までは自分もいたはずの部活動紹介、母のスマートフォンに残っている、去年の夏で途切れた部活動の写真、バレー部から聞く近況、その全てが空っぽの心を埋めていく。バレーに対する熱が心のろうそくに灯り、また真っ赤に輝いた。
「戻りたい。バレー部に戻りたい。」
私は泣きながら母に気持ちを伝えた。もう締切は過ぎていたが、そんなこと関係なかった。担任の先生に入部届を貰い、その日のうちに書きあげた。
 次の日の朝、私は朝練が行われている体育館へ向かった。教室に荷物を置き、一階に降りるまでの足取りは軽かったが、体育館前の渡り廊下に来ると足が動かなくなった。今までの記憶が脳裏に浮かび、また同じことを繰り返してしまうかもしれないと不安になったからだ。右手に入部届を握りしめたまま私は体育館に背を向けてしまった。このまま帰っていいのか。絶対に後悔するよ。でも……。心に灯るろうそくの炎が様々な感情の風に吹かれ消えそうになった。その時、入口から顧問の先生が出てきたと同時に、バレー部の声や電子タイマーの音が聞こえた。言わなければいけない。今、今気持ちを伝えないと。どこからかそんな声が聞こえて私の背中を押した。
「先生!私また、バレーをしたいです。もう一度、みんなとコートに立ちたいです。」
涙交じりの震えた声でそう先生に伝えた。そして、今までの葛藤とこれからの希望を、右手に握っていたクシャクシャの入部届に込めて渡した。
「おかえり心音。また一緒に頑張ろう!」
仲間も、顧問の先生も、保護者の方々も優しく私を歓迎してくれた。
それから少しして、私は練習試合で、一年生の中に一人交じってプレーをすることになった。
 「おかえり」みんなの声を胸に必死にボールを追いかけた。もちろん体力も技術も落ちていたが、確実に心は強くなっていた。試合後、みんな口々に「どうやった?」と私に問いかけてきた。私は、今まで溜めていた気持ちを吐き出すように笑顔でこう答えた。
「またこの場所に立てて本当に嬉しい!」

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