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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2019年度 第55回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

生徒会室

北九州市立  熊西中学校2年田中 瑠菜

 「ガラガラッ」
扉を開ける音がいつもの何倍にも聞こえる。
 扉を開けた形のままの私へ、ほんの一秒ほど注がれる視線に、緊張と不安と申し訳なさが芽生える。
「また今日も何もできないんだろうな。」
初めから諦めたようなことを思う私は好きではないが、毎回そうなるのだから仕方がない。
 定例会が終わり、いつもどおり先輩に尋ねる。
「何かすることありますか。」
答えはいつも同じで、
「今はないかな。帰っても大丈夫だよ。」
私も笑顔で返事をする。
「わかりました。お疲れ様です。」
私は困り、そして不安になる。この恒例化したやり取りも、初めは本当に何もないのだろうと気にも留めていなかった。でもこの言葉の裏で、先輩たちは動いてくれている。それなら一緒にやればいいのかもしれない。でも自分で考えて、自分なりに行動すること。それが少し苦手だと気付いて、いつも先輩に聞いてしまう。間違いたくないから。そうやって他の人の手を煩わせてしまうことが怖かった。だから動けなかった。せめてもの抵抗として、やることがあるか尋ねることくらいしか。
 私が何もしていなくても滞りなく活動は進んでいくし、何もしていなくてもそのことに触れられることもない。私が三役になってよかったのだろうか。足を引っ張ることこそしていないが、いてもいなくても一緒だ。本当はもっと頼りにならなければならないのに。そこに入れることに誇りを感じていた生徒会室。その扉を開けるのが嫌になっていた。
 私は普段から、何もできていないと軽く、いや、そう装って友達に話すことがあった。そのことに気付かれて白い目で見られるのを避けたかった。それなら先に自ら言ってしまえばいい、と。そして時々友達から発せられる、
「本当に何もしてないじゃん。」
という言葉が痛かった。それでもなお、周りに甘えていたのだから
「わかりました。お疲れ様です。」
私は困り、そして不安になる。この恒例化したやり取りも、初めは本当に何もないのだろうと気にも留めていなかった。でもこの言葉の裏で、先輩たちは動いてくれている。それなら一緒にやればいいのかもしれない。でも自分で考えて、自分なりに行動すること。それが少し苦手だと気付いて、いつも先輩に聞いてしまう。間違いたくないから。そうやって他の人の手を煩わせてしまうことが怖かった。だから動けなかった。せめてもの抵抗として、やることがあるか尋ねることくらいしか。
 私が何もしていなくても滞りなく活動は進んでいくし、何もしていなくてもそのことに触れられることもない。私が三役になってよかったのだろうか。足を引っ張ることこそしていないが、いてもいなくても一緒だ。本当はもっと頼りにならなければならないのに。そこに入れることに誇りを感じていた生徒会室。その扉を開けるのが嫌になっていた。
 私は普段から、何もできていないと軽く、いや、そう装って友達に話すことがあった。そのことに気付かれて白い目で見られるのを避けたかった。それなら先に自ら言ってしまえばいい、と。そして時々友達から発せられる、
「本当に何もしてないじゃん。」
という言葉が痛かった。それでもなお、周りに甘えていたのだからどうしようもない。
 そんな私が変わろうと思ったのは何がきっかけだろう。執行部での活動も今の代が終わろうとする頃。文化祭があった。私はオープニングの打ち合わせを横で聞いていた。先輩と対等に話し合う仲の良い同級生を見てすごいな、なんて、また人ごとのように思っていたとき、
「じゃあ、主役は瑠菜ちゃんで――」
不意に耳に飛び込んできた言葉。
「え、無理ですよ。」
咄嗟に言ったが、先輩はあっけらかんとして、
「大丈夫、大丈夫。」
と笑う。もう一度、できないと言おうとしてふと思う。胸を張って活動したといえるチャンスなのではないか。この頃になると私たちの学年では、あと一年執行部を続けるか、ということがよく話題に上った。その度に私は、
「わからない。」
と答えていた。そう言いつつも、一つ行事を乗り越えるたびに感じる達成感や、些細なことでも友達と話し合って進んでいくことが好きだから、それができるこの場所を失くしたくないと思った。だからやってみよう。完璧にはできないかもしれないけれど、挑戦してみよう。
 そこから何か吹っ切れた。やっぱり無理だと思っても、決まったことを変えればみんなに迷惑がかかる。そうなるとやるしかない。私は声が大きくないし、響く声でもない。でも、だからこそ一生懸命に。振付も大きく、楽しそうに。全然うまくいかないけれど、練習する時間はとても充実していた。
 そして本番。目を瞑りそうな程のスポットライトを浴び、なぜか緊張は解けていった――
 大成功だった、とはいえない。後から見返せば改善点など嫌というほど見つかった。でも心底楽しかった。緊張すらも楽しくなる一つの材料になっていた。やっと頑張れた気がした。そして間違いに気付いた。上手くやれる自信がない、むしろ迷惑になるかもしれないと避けたことで私は成長するチャンスを自ら摘み取っていた。自分から周りとの差を広げていた。失敗を恐れることがいけないとは思わない。ただ、ときにはえいっと、勢いで手探りでも挑戦してみたほうがいいこともある。何もしないほうが罪だ。たくさんの人に応援してもらえているのに何をしていたのだろう。これからは自分を信じてチャレンジしていこう。
 そう決意した私は、あと一年執行部を続けることを決めた。去年は先輩たちに頼りっぱなしだったから、二年目とは思えないほど頼りない。でもみんな嫌な顔一つせずに助けてくれる。こんな素敵な場所の一員でいられることに改めて幸せを感じた。きっと失敗をしても責めるどころか、一緒に悩んでくれるそんな仲間。でもそれに全面的に甘えるようなことをしてはダメなのだ。今度は私が助けられるように、私がいてよかったと思ってもらえるような人になろう。卒業してからもこの思い出を大切に思えるように、これからもっともっと、今までの倍以上の努力をしよう。
「ガラガラッ」
 校舎二階の廊下。一番奥の扉を開け放つ。
「チリン」
 今は、扉が開く音に重なり、先輩が遊び心で付けたのだろう鈴の音も軽やかに響く。
 私は向けられた視線に笑顔を返す。
「さあ、今日も頑張ろう。」
 心の中で呟いた。

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