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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

RKB毎日放送賞

弟は変わった

北九州市立  熊西中学校2年岡 茉咲

 弟は変わった。

 私には八歳下の弟がいる。かわいらしい顔立ちをしていて、生まれてからずっと髪を伸ばしていた。保育園のクラスでは、二番目に小さい。よく女の子に間違われていた。性格も気が弱いわけではないが、自己主張は苦手。友達の中では、自分のしたいことを我慢して、意見を言えないことが多かった。髪が長いことでからかわれ傷つくこともあったので、両親が髪を短くすることを提案すると、なぜか弟はとても嫌がった。

 しかし、そんな弟が小学校に入学するにあたり、生まれて初めて髪を短くすることになった。嫌がっていた弟だったが、いざ切ってみると予想外の反応を弟は見せた。鏡ごしに見える新しい髪型の自分を見て、照れながらも喜んでいるようだった。保育園の先生や友だちにとても驚かれた上に、「かっこいいね。」とたくさんほめられたようで、それを家でうれしそうに話してくれた。

 すると、弟は変わった。

 私が変化に気がついたのは、髪を切って一ヶ月程たった頃だ。自己主張の少なかった弟が、思ったことやしたいことをはっきりと言うようになったのだ。以前よりも自信にあふれ、頼もしくなったという印象を私は受けた。

 なぜ、髪型が変わったことにより、弟の内面や行動に変化が起きたのだろうか。私はこのことに疑問を抱いた。そして、二つの理由を考えた。

 まず、最初に私が考えたのは、周囲の反応による影響だ。今まで「かわいい」と言われることの多かった弟が、髪を切ってから「かっこいい」という周囲の反応の変化に触れた。女の子に間違われなくなったことで、無意識に自信を持てたのかもしれない。友だちの弟への接し方もきっと変わったのだと思う。見た目が頼もしくなったことで、友だちも弟への接し方が変わった。それで弟の内面や行動が無意識のうちに変わったのだと思う。

 次に私が考えたのは、弟の自我の変化だ。保育園でからかわれても、弟が髪を切ろうとしなかったのは、「自分はこうなんだ」という自己認識があったからだと思う。つまりアイデンティティだ。アイデンティティとは、自分と他人を区別し、自分を自分と実感する概念だ。弟は鏡に映る髪の長い自分を見て、「自分=かわいらしい」と認識していた。それが髪を切ったことで、視覚的に自分のことを今までになく頼もしくなったと感じたのではないだろうか。「自分=頼もしい」という印象を自分がもち、それが弟の内面や行動の変化にあらわれてきたのだ、と考えた。

 これら二つの考察から、アイデンティティとはこのように簡単に変化するものなのか気になり、調べてみることにした。

 実際に調べてみると、アイデンティティはおよそ十三?二十歳の青年期と呼ばれる時期に確立されることが多い、ということがわかった。このことから、弟のアイデンティティの変化は、年齢にも関係していることが分かる。まだアイデンティティの確立がされていない弟の年齢では、周囲の影響を受けやすい。よって内面にも変化が起きて、行動の変化にもつながった、ということが推測できた。

 この一連の弟の変化において、私がもう一つ着目したことがある。それは、弟や周囲の変化が意識的なものではない、という点だ。つまり、皆が無意識のうちに変化しているのだ。弟が髪を切った、たったそれだけのことが、本人の外見だけでなく、内面、そして周囲の弟に対する接し方さえも変化させたのだ。

 これを今度は私たち、中学生に置きかえて考えてみる。私たちは、まさに思春期にあり、ファッションやメイクが気になる年ごろだ。それならば、私がしたいファッションやメイクも、当然周囲の人や私自身に影響を与えるはずだ。私はこのことを考えていなかった。普段、どれだけ優しく、良い子であっても、濃いメイクをしていれば、周囲はその子によい印象をもちにくいだろう。そうすると、その本人もいずれ周囲の人に優しい気持ちを持ちづらくなると思う。

 現在、私達の周りには、ヘアカラーやカラーコンタクト、プチ整形など、外見を簡単に変えられる様々なものがあふれている。これらは程度によれば、人によい印象を与えたり自分自身に自信をもたせたりできるものだ。しかし一歩間違えば、無意識のうちに周囲に悪い印象を与える。それを受けて、本人も無意識のうちに誤った行動を起こしてしまう。

 私は今回、この作文を書くにあたって、学んだことや気づいたことを、これからも服装選びや身なりの整え方に生かしていきたいと思う。

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