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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2019年度 第55回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

温かいはく手

福岡市立  室見小学校6年前田 幸穂

「これで最後か…。」
今日は、小学校生活最後の学習発表会。辺りには、張り詰めた空気がただよっている。私は大きく深呼吸をした。先生が指揮棒をあげた。一番練習してきた合奏が始まる。
「よし、がんばろう。」
私はまた、大きく深呼吸をした。
 九月の終わり、鉄琴を演奏する人を決めるオーディションがあり、私はやる気満々でそのオーディションに参加した。
 昨年の学習発表会は、けんばんハーモニカだった。鉄琴のオーディションに落ちてしまったのだ。そこから私は、
「来年の学習発表会の合奏では絶対に鉄琴を演奏する。」
と心に決めていた。だから今回のオーディションには人一倍かける思いがあった。
 オーディション内容は曲の一部を演奏するというものだった。今回私達が合奏する曲は、「ドラゴンクエスト~ロトのテーマ~」だ。何度か聞いた事はあるが、演奏するとなると不安を感じた。演奏できるのは三人。オーディション参加者は五人。ここを乗りこえなくてはならない。私は必死に練習し、なんとかやりきった。オーディションが終わった後は、きん張から開放された気分だった。
 そして結果発表の時。
「鉄琴は、佐々木さん、川畑さん、前田さんに決まりました!」
先生が発表し終わったと同時に、拍手が送られた。声が出ないくらいうれしかった。
 下校して、母に伝えると、
「良かったね!」
と喜んでもらえ、合奏を大成功させたいという思いが一段と強くなった。
 そんなある日のことだった。
「痛い!」
ドッジボールをしている時、右手の中指に痛みが走った。つき指だ。急いで病院に行くと、骨折という診断だった。お医者さんの言葉は、
「手術が必要です。」
悔しくて、後悔して、涙があふれてきた。
 しばらくして、手術をした。鉛筆を持つ事も、はしでご飯を食べる事も、できなくなった。母から、
「鉄琴は辞退させてもらった方がいいんじゃない?」
と言われたが、私はあきらめられなかった。
「絶対にやる!」
そこから私は、鉄琴の練習に一層時間をかけ、右手の中指を使わずに弾く事に慣れていった。やっと自分が完ぺきと思えるような演奏ができるようになった時、みんなと合わせると、もっともっといい演奏になった。この時私は、あきらめずに前へ進む事のすばらしさを感じた。
「パチパチパチパチ…。」
小学校生活最後の合奏が終わった。まだ私達の出し物は始まったばかりだというのに、体育館は温かいはく手で包まれている。私は、今までの事を思い出し、胸が熱くなった。この感動を忘れる事はないだろうと―。

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