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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

福岡県教育委員会賞

感謝のラストラン

福岡市立  片江小学校6年山下 皓大

 「コラッ。なんで歩きようとね。」
マラソンの練習なんて、大きらいだ。
 練習についてきた母が、横からいちいち口をはさんでくる。
「そんなゆっくりペースで走って本番だいじょうぶとね。ダラダラせんで一生懸命せな。」
「まだ半分もいっとらんやないの。ほらっ。」
いろいろ言われれば言われるほど、ぼくのやる気はどんどんどんどんなくなっていく。
 実は、ぼくは二年生のときから出場しているマラソン大会で、四年連続トップテン入りし、毎年表彰を受けている。
「小学校最後よ。皓大にプライドはないわけ。」
「ああ、ないね。」
ぼくは、母にかぶせるように言った。走る練習の途中だったが、もうこりごりだ。だまって家に帰ってやった。母とは別の帰り道を選んだ。
 玄関の前で母が腕を組んで立っていた。その母の横を、無視するように通ろうとしたそのとき、服をグイッとつかまれた。でも、それもふりきって家に入った。
「皓大は走るのがいやなんよな。今は。」
ぼくたちのやりとりを見ていた祖父が、ぼくの気もちを代弁してくれた。
「皓大、買い物いくぞ。」
祖父が軽トラックに乗って、連れ出してくれた。ぼくの機嫌をなおそうと、いろいろな話をして気をまぎらわせてくれた。かっこいいトレーニングウェアも買ってくれた。帰り道の車内で、祖父が、
「咳がまだ出よるけん、皓大の走りはまだ本調子じゃないっちゃんね。」
と言った。年末に体調をくずして以来、思うように体が動かないのがくやしくて、ぼくは焦っていた。でも、それを理由に、練習を真面目にやろうとしていない自分もいた。ぼくは泣きそうになるのをこらえた。
「あとは、帰ってばあばのおいしい料理を食べて、ねるだけ。最高やね。」
祖父の言葉にやさしさを感じた。
 おいしい晩ご飯をおなかいっぱい食べた後、大好物のリンゴを食べていると、次は、父が、
「あのね、皓大。自分の記録のためだけに走るんじゃないんぞ。応援してくれとう人たちが、お前のまわりにはいっぱいおるんぞ。やけん、その人たちのためにもがんばらな。でも無理はするなよ。」
と話してくれた。また明日からがんばってみようという思いが芽生えてきた。
「まわりの人たちへの感謝のラストランたい。」
と、母も笑った。そういうことだったのか。
 本番がやってきた。順位はともかく、応援してくれているみんなに、一生懸命な姿を見てもらおうと心に決めていた。結果は十位だった。みんなありがとう。おかげで、がんばれたよ。

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