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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

福岡県知事賞

詰められた想い

国立大学法人  福岡教育大学附属福岡小学校6年小川 悠花

「お父さん、びっくりするやろうね。」
「そりゃ娘が作ったって知ったら、喜ぶに決まってるじゃない。」
母が運転する車で、わたしは父が働く病院へと向かった。お弁当を手渡すためだ。冬休みの宿題として、一食分の献立を考えて作るという課題が出ていたわたしは、手こずりながらもなんとか四品作り上げた。どうしても、忙しく働く父にもそれを食べてもらいたいと思ったので、お弁当にして届けることを思いついたのだ。
 しかし、ちょうど病院に着いた時、けたたましく鳴り響く救急車のサイレンが聞こえてきた。父を呼び出すなんてとてもできない慌ただしい空気を感じたわたしは、事務の方にお弁当を渡してもらうようお願いし、父に会うことなく病院を後にした。
「お父さんにメールしておくね。落ち着いたら連絡くれるでしょう。」
帰りの車中、母はそう言いながら話を続けた。
「お弁当を作る時って、同じ物を作っても、普通に食卓に並べる時より特別な気持ちにならなかった?お母さんはいつもそう。」
とう突な質問だったが、母の言いたいことにうなずける自分がいた。父の好きな物はたくさん入れてあげようとか、忙しい父にしっかり栄養をとってもらおうとか、わたしも多くの想いを込めて、父へのお弁当を作ったからだ。お弁当箱という限られた空間に、たくさんの想いをぎゅっと詰めようとするから、母の言う特別な気持ちは生まれるんだと思った。
 特別な気持ちは、お弁当を食べる側も感じている。今までの人生、幾度となく母のお弁当を口にしてきたわたしは、こちらの気持ちの方がよく分かっているのかもしれない。六年生になってからは、塾で過ごす時間も増え、母のお弁当を食べる機会も多くなった。お弁当のふたを開ける瞬間はいつもワクワクし、「今日は何だろう。」と期待する。模試の日のとんかつがドンと乗ったお弁当は、密かなプレッシャーを感じるが、応援してくれている母の気持ちは素直にうれしい。「受験生にはクリスマスもお正月もない。」と言っていた母が、この間のクリスマスに赤いリボンのついたチキンを入れてくれた時は、母のささやかな優しさを感じ、心がほっとした。わたしはいつも母のお弁当から、凝縮して詰められた無言のメッセージを受け取り、それをかみしめながらお弁当を味わっているんだと思う。お弁当に特別感を抱く理由はそこにあるんだと思った。
 父からの連絡は夜中を回った時だった。
「これ、悠花が作ったんやろ。わたしが作りましたって文字がご飯から浮き出てるわ。」
「お父さんの好きな鮭のフライやん。タルタルソースもいっぱい入れてくれとる。」
「あー、豚汁、体にしみてうまい。」
冗談を混じえながらも、一品一品コメントをくれる声から、喜んでくれている父の笑顔がにじみ出ていた。どうやら、わたしからの特別な想いもちゃんと受け止めてもらえたようだ。お弁当を通して、伝えたり受け取ったりする気持ちのキャッチボールを、また楽しみたいと思った。

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