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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

福岡県知事賞

一日前のプレゼント

福岡市立  田島小学校5年安部 稜埜

「補助輪を外して自転車に乗ってみたい。」
 年長の妹は目を輝かせてそう言った。外がとても寒い土曜日の朝のことだった。
「よし。じぁあご飯を食べて、着がえたら行こうか。」
父が答えると、
「うん、うん。」
と妹はうれしそうにピョンピョンはねながら母のいる台所へと向かった。
 補助輪を外すのはまだ早いし、乗れるわけないのになぁと思いながら、ぼくはふとんの中で二人の様子を見ていた。
 その日、いつもなら時間がかかるはずの朝食も着がえも、妹はあっという間に終わらせてしまった。
「早く行こうよ。」
何度も父をせかしながら、妹は家中を走り回っていた。もう誰が止めても聞く耳をもたないくらいその顔はやる気に満ちあふれていた。
「補助輪外して本当に大丈夫なの。」
とぼくが聞くと、
「大丈夫。」
妹は得意気にそう答えた。
「出来る。大丈夫。」
やったことないくせに、初めてのときはフラフラしてこわいんだぞと何度も言いそうになったけれど、ケンカになりそうだったからぼくは言うのをぐっとこらえた。
 そして間もなく準備を終えた二人は、笑顔いっぱいに外へ出かけて行った。
 ぼくはみんなより少し遅い朝食をとった。食事中妹のことが気になり、何度か窓から外の様子を見てみた。すると、やはりぼくの予想通り、妹はペダルに足をのせることすら出来ず、フラフラとバランスをくずしていた。
「ちょっと見てくる。」
母にそう言ってぼくは外へ出た。さっきまでとはちがい、妹は笑顔一つすら見せず負けん気な顔で練習をしていた。
「バランス、バランスを取って。こわくないよ、がん張れ。」
ぼくは、妹の気が散らないように応援しながら自転車の後ろをついて行った。と中、ころんだりバランスが取れずフラフラしたりしていたけれど妹はすごくがん張っていたと思う。
 それから三週間後、はく息も真っ白になるくらい寒かったある日、妹とぼくはまたいつものように練習に出かけた。
「いくよ、よういどん。」
力一杯こぐ妹。スピードは今日が一番速い。
「あと少し、あと少し。」
ぼくは何度も妹を励ました。同じ道を往復するうちに手応えを感じてきたぼくは、支えていた手をそっと放してみた。すると、妹はそのことに気づきもせず、みるみるスピードを上げてこいで行った。
「やったあ。すごいじゃん。」
とぼくは叫んだ。妹はうれしそうな顔をして、真っ赤になった手をぼくに、力一杯振ってみせた。
 その日は、ぼくの誕生日の一日前だった。妹の成功した姿を見て、ぼくも達成感で胸がいっぱいになった。妹のがん張る姿が、ぼくにとって最高の誕生日プレゼントになった。

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