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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

西日本新聞社賞

ふるさとと生きる

久留米市立  田主丸中学校3年梯 亜紗美

 私の住んでいる大好きな町、田主丸の亀王は慶応の時代から続く綿の生産地でもありました。その中でも私の家は、この地域の本家であり、「亀王綿」として、綿を使用した布団屋を営んでいました。私の祖父は四代目で、祖母は祖父と一緒に毎日のように会社に足を運んでいました。

 「亀王綿」はおそらく昭和の時代、多くの人々がそこで買い物をし、祖父母と買い物客が日常の会話を楽しみ、大いに賑わっていたのだと思います。今でも祖母は「亀王綿」のことをよく私に話してくれています。

「あの頃はね。人と人とが温かい心でつながってたんよ。たくさん の人に迷惑かけてしまったけど本当に楽しかったんよ。あと、私 たちのとこの布団はどこにも負けてなかったわ。」

笑顔で話してくれる祖母ですが、いつも瞳には少し、悲しい心が見えるような気がしました。

 ある日、いつものようにそのことを話してくれる祖母の言葉に疑問を抱きました。なぜそんなにも愛されていたお店がなくなってしまったのだろうか、と。私は会社の工場が取り壊されている様子をかすかに覚えていました。平成になって活気は薄れていましたが、持ちこたえてきて私が三歳くらいの頃に取り壊しが決定しました。トラックやダンプカーなどが駐車場に次々と入り、あの大きかった工場をどんどん壊し、去っていきました。隣にいた母や父、祖父や祖母の目には涙が溢れ出していました。その情景から、潰したくて潰したわけではない、それだけは分かっていましたが、具体的なことまでは全くといっていいほど知りませんでした。

「おばあちゃん。なんで綿屋潰れたと。」

思い切って祖母に聞いてみると、祖母はじっくりと目をつぶり言いました。

「時代の流れやね。」

その一言だけ発して、

「散歩に行ってくる。」

とどこかへ行ってしまいました。私はますます分からなくなりました。祖母が伝えたかったことは何だったのだろう。「時代の流れ」ってどういう意味だろう。いろんなことを考えている間に、先ほど出ていったはずの祖母が一つの枝を持って帰ってきました。

「え。おばあちゃん散歩やなかったと。」

「あーちゃん。これが綿の花なんよ。この白いのが綿。昔はいつも これを採ってね。それから布団とか作りよったんよ。でもね、最 近になって中国とか外国から安く手に入るようになったけんね。」

少し悲しそうに話す祖母。一呼吸おいてまだ話し続けました。

「安いものがいいというお客の気持ちもとっても分かるけんね。仕 方ない部分はあるよ。でも、何でもかんでもなくなっていくのは 寂しいもんやね。」

祖母の言葉一つ一つが、他人事ではない。そう感じました。また、祖母は自分のことだけでなく

「私たちのような理由で仕事がなくなった人たちはたくさんいる よ。」

と伝えたかったのではと思いました。祖母の想い、意志を受け継いでいかなければならない、そんな強い義務感が私の心に芽生え、大きくなっていきました。

 今世界でグローバル化が進む中、日本は特に影響を受けている国でもあります。江戸時代、綿の自給率100%を誇っていたのにも関わらず今では、ほぼ0%という現状にあると言われています。綿だけではありません。ほとんどの食料、エネルギー、農産物において輸入化が進み、年々日本の食料自給率は低下しています。日本の海外依存はとても深刻な問題となっているのです。誰もがこのままではいけない。そう感じるはずです。私達はどうすればいいのでしょうか。素晴らしい技術をもっている人、優れた製品を作ることができる人、安全で美味しい食料を日々作ってくれる農家、日本には、こんなすごい人達が大勢います。私たちは、その人たちが培ってきたものを捨ててしまっていいのでしょうか。終わらせてしまっていいのでしょうか。各地域のふるさとで大事にしていかなければならないものは必ずあります。それは、これから大人になり世の中を引っ張っていく私たちが守り、受け継いでいかなければならないのではないでしょうか。もう一度自分のふるさとを見つめ、知り、触れ合い、そしてつながり合う必要があります。そうすれば、大事なものを守っていける、ふるさとと生きることができるはずです。

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