2017年度 第53回 受賞作品
西日本新聞社賞
干し柿のように
福岡市立 筥松小学校6年篠原 果林
「さぁ始めるよ。」
祖母のかけ声で今年も干し柿作りが始まった。毎年、祖母の家では干し柿を作る。私は祖母と作る干し柿が大好きだ。テーブルの上には、つやつやと大きな柿がいっぱい並んでいる。どう見ても、私には甘くておいしい柿にしか見えない。でも、しぶ柿なんだ。私は、しぶ柿のしぶいということがよく分からず、おもわずなめてみた。
「わぁ、舌がしびれる。」
口の中がなんともいえない気持ち悪さだ。これがしぶいということなんだと初めて知った。すると祖母が、
「今の子どもには、しぶいということを経験することがあま りないからわからないかもね。」
と、横で笑っていた。
このしぶくてとても食べれない柿が、干すとどうして甘くなるのかとても不思議に思い、調べてみた。しぶ柿にはシブオールというタンニンが含まれていて、シブオールは水溶性のため、干すことで水溶性から不溶性になり、しぶく感じなくなるそうだ。また、干すことで水分がぬけて糖度が高くなり、なんと干し柿の甘さは甘柿の約四倍にもなるというのだ。こんなにまずい柿があんなに甘い柿に生まれ変わるのは本当にびっくりだ。
すると、
「昔はどこの家でも柿の季節になると干し柿を作っていた よ。今ではすっかり作る家も少なくなったよ。」
と、少しさびしそうに祖母が言った。私も昔の作業がなくなって、忘れられていくことは本当にさびしいと思った。これからも私は、祖母から教えてもらった干し柿作りを続けていきたいと思う。
いよいよ、私達の干し柿リレーのスタートだ。まず祖母と母が皮をむき、私がつるす紐を何本も切って作る。皮がむけると母が柿にひもを結び、私が熱湯に柿をくぐらせ、祖母のもとへと持っていく。そして、祖母がのき下に柿を干すという干し柿リレーだ。なぜ熱湯につけるのかを祖母に柿を渡しながら聞くと、
「熱湯につけることで殺菌にもなり、かびが生えにくくなる んだよ。」
と、教えてくれた。
そして、干し柿にはもうひとつ大切なことがあるそうだ。それは冬の冷たい風にさらされなくてはならないということだ。冷たい風にさらされながらも、しぶい柿から甘い柿へと変わっていく。今の自分も、きっとしぶくてまずい柿と同じだと思った。これから色々な冷たい風にもぶつかるだろう。それを乗りこえ、しぶ柿がおいしい柿へ変わるように私も努力し、つらいことにも負けず、立派な大人へと成長していきたいと思った。
私はなる。干し柿のように。
そして、私達の干し柿リレーは、来年も再来年もまだまだ続く。