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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

世界をつなぐ第一歩

福津市立  福間東中学校1年坪根 慎一郎

 「私は私にできることをするだけ……。」

 これは、南米アンデス地方に昔から伝わる「ハチドリのひとしずく」という物語の中に出てくる、主人公のハチドリの言葉である。この物語は、森が燃え、動物たちは逃げていく中、一匹のハチドリが水を一滴ずつ落とし、火を消そうと必死に立ち向かう姿を描いた物語である。僕は、この話を読んだとき、ハチドリの勇敢さに感動した。そして、何か一つでも自分にできることはないだろうかと思った。それがきっかけとなり、僕は、夏休みに五日間、新聞社が設立した「ハチドリ隊」としてベトナムに行った。

 ベトナムでは、主に環境問題について考え、人の役にたちたいと思い、マングローブを植林した。ここは四万ha、なんと福岡ドーム八千個分ものマングローブが植林されていた。どこまでも見渡す限り続く緑が三百六十度広がって見えた。僕は、その迫力と美しさに言葉を失った。前までとは全く違う、ドキドキワクワクが心の底からこみ上げてきた。そして、植林を始めるときには、軍手、スコップ、長ぐつとやる気満々となって活動を始めた。

 はじめは、「掘って入れればすぐ終わるし、そんなに大変でもなさそうだ。」と思ってやっていた。しかし、土は重く、ねん土のようにべたつきがあり、次の一歩がなかなかでない。しっかりふんばっているだけで精一杯だった。照り続ける太陽が、僕の体力と水分を奪っていった。

「はぁ、はぁ。暑いし、苦しいなぁ。」

 いつのまにか、着ていた服は泥でまみれ、大量の汗がにじんでいた。隊員の言葉数も少なくなってきた。しかし、こんなときこそ、「私は私にできることをするんだ。」といいきかせ、気持ちを奮い立たせ活動を続けた。

 このハチドリの言葉は、どんな時でも自分に元気をくれる。マングローブを見ると、今まで植林し続けてきた人達の功績に感動した。今回植林した三百五十本という数は、この広大なマングローブに比べると、ハチドリの滴のようなものかもしれない。しかし、この一本一本には僕達ハチドリ隊の気持ちがしっかりと入っている。最後は泥まみれになりながらも全員が笑顔になったいい活動だった。

 実は、この四万haものマングローブは、まだ「不完全」である。それは今から約四十年前に全てのマングローブが被害にあって、まだ取り戻せてないところがあるからだ。その被害の原因となったのが十五年間続いたといわれる「ベトナム戦争」だ。その恐ろしさを知るために戦争証跡博物館に行った。

 足をふみ入れたそこには、とても見ていられない写真がたくさん展示されてあった。手や足など体の一部をなくした人、食糧が手に入らず、亡くなった人など、たくさんの人が苦しんでいて、まさに地獄だと思った。さらに、植林をしたカンザーという町には、戦争中アメリカ軍により枯れ葉剤が約二百回もまかれ、自然を破壊し、人間にまで被害をもたらした。その全てがまるで、鉄砲の玉のように僕の心に苦しみとなってつき刺さったようだった。しかし、僕はここでとても感動したことがある。それがベトナム人の「絶対に諦めない根気強さ」である。どんなに苦しい時でも生きるために、人々を守るために、平和を取り戻すために、諦めない、根気強さに心を打たれた。だからこそ、ベトナム人みんなで団結して、守り抜いたことにすばらしさを感じた。平和についての考え方が変わった瞬間だった。

 僕は、このハチドリ隊として活動できてよかったと思う。初めての外国で何もしらない未知の世界で、日本とはまた一味ちがう価値感が味わえてとても楽しかった。食事はもちろん、あいさつや礼儀などの文化が全く違って驚いた。それでも何とか身振り、手振りで伝えることは、自分らしさを出す一つだと思った。僕は、これからベトナムで学んだ、忘れない、忘れてはならない恐ろしさや苦しさを直接被害者の方から話をきけるこの世代で一人でも多くの人に発信したい。たとえ、誰かに認めてもらえなくてもいい。今、自分にできることを精一杯、必死にやることが、世界をつなぐ、人をつなぐ、心をつなぐ第一歩だと思った。

 僕は、この活動において、一番大切なのは、

「写真や言葉の重みを感じて、それに対して自分の考えをもつこと」だと思った。こんなに大きなことでなくても、クラスメイトや友達の個性に気づくことや、小さな変化に気づいて、人と人の関係をもっと深めていくことなど、できることはまだたくさんあると思う。だから、僕は、自分にできることを必死になって少しでも多くやっていきたい。あのハチドリのように……。

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