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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

RKB毎日放送賞

伝わる優しさ

北九州市  熊西中学校3年池内 香菜実

 私には、八つ離れた姉がいる。三人兄弟がいるなかで、一番関わりが深いのが、この姉である。

 姉は成人していて、仕事もしている、立派な大人だ。朝は、私が起きた頃にはもういない時もあり、毎日とても忙しい日々を送っている。でも、そのぶん、きっとストレスも抱えているのだと思う。

 私は、姉のことが大好きなので、よく意味もなく、姉の背中をとんとんつついてちょっかいを出したり、姉があきれてためいきをもらしてしまうようなことをしてしまったりする。

 そのたびに、姉は、

「もう、本当にウザイ。」

などと言うが、怒ることはめったにない。だから、私は姉の気持ちなど考えもせず、調子にのって、またちょっかいを出してしまう。今思えば、姉はこの時、どんな気持ちだったのだろうと、自分の心まで痛くなってくる。

 ある日のこと、姉は家に帰ってくるのが早く、私が寝ようとした時には、姉はすでに眠りについていた。私も、早く寝ようとしたときのことだ。突然、

「すいません。すいません。」

と繰り返す姉の声が聞こえたのだ。それは、私がいつも知っている姉の姿とは違っていてとても驚いた。

 翌朝、母にそれを話すと、私が聞いたのが初めてではなく、母も何度も聞いたとのことだった。私は、びっくりした。母は、きっと仕事のストレスからだろうと言っていた。

 その時、私は初めてハッとした。姉は、毎日、仕事で忙しい日々を送って、毎日疲れて家に帰ってきている。このことは分かっているつもりだったのに、私はどうして姉の気持ちに気づいてやれなかったのだろう。それどころか、なぜ何度もちょっかいを出してしまったのだろう。

 でも、姉は一度も本気で怒らなかった。本当に優しい姉だと思う。それだけでなく、近くで事件や事故があったときには、母にわざわざ電話をかけてきて、

 「近所で事件があったらしいから、かなを送っていってあげて。」

と、言ったそうだ。

 こんなにも姉は思いやりがあるというのに、私は本当に何をやっているんだろう。私は、姉に何もしてあげられなかった。無力感に襲われ、本当に悲しかった。

 今まで何度も私が姉に味わわせてしまった感情は、もう消すことができない。でも、これから少しずつ挽回していこうと思う。そして、姉が帰ってきたとき、一番の安心できる場所が家だと思ってもらえるように、これから頑張っていきたい。

 このことを通して、私は人の優しさについて、考えるようになった。

 姉が私に優しさをくれたことで、私も人に優しくしようと思うようになった。そして、その思いはだんだん強くなり、どんなことをしたら姉が喜ぶだろうと考えるようになった。まだなかなか実行に移せないこともあるが、少なくとも姉が今どういう気持ちかを考えるようになった。

 そうだ、優しさは伝染するのだ。

 学校生活でも、こういうことは、よくある。自分が困っているとき、友達が助けてくれると、うれしい。そして、次は、自分が助けてあげたいという気持ちになる。それで、実際に助けてあげられるといいのだが、私はまずそう思う気持ちが大事だと思う。

 優しい人がいるから、人は変わることができ、優しくなれるのだ。

 これからは、姉に優しくしよう。姉だけでなく、家族や友達、近所の人たちなど、みんなに優しくしよう。

 でも、果たして私にできるだろうか。

 以前、何気なく手にとって読んだ本に「種をまく人」(ポール・フライシュマン作)という物語があった。オハイオ州クリーブランド、貧しい人たちが住んでいる地域にある一角の空き地は、正式なゴミ捨て場ではないのに、ありとあらゆるゴミが捨てられていた。

 でも、ある日、ヴェトナム出身の少女キムが、そこに豆を植え、水をかけると、さまざまな民族の人が、空き地にやって来ては、種をまき、畑を作るようになったという話だった。

 あくまでも物語の話だとは思うが、この物語は大切なことを私たちに教えてくれる。だれか一人がゴミを捨て始めると、次々にゴミが捨てられるようになる。でも、誰かが種をまくなどの価値あることをし始めると、みんながそうするようになり、今までと違った人間関係ができてくる。

 これからは、私も相手の気持ちを考えて、よい人間関係を築いていきたい。そして、それを家族から、学校、社会、そして世界へと広げていきたい。

 そういう気持ちにさせてくれた姉に、私は心から感謝している。

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