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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2025年度 第61回 受賞作品

RKB毎日放送賞

失敗という、可能性の種を拾って

北九州市立  尾倉中学校3年中村 光貴

 近年、人工知能の進化には目を見張るものがある。動画配信サイトを開けば、AIが私の好みに合わせた動画を勧めてくれるし、絵や画像を依頼すれば、プロ顔負けの技術を数秒で再現する。そんな「完璧」な存在を前にして、私は時々、不安になっていたのだ。
「いつか、人間にしかできないことなんてなくなってしまうのではないか」と。
 しかし、私は過去の失敗体験を通じて、AIには真似できない、私たち人間の価値ある行動を再度理解し、その不安を無くすことができた。その行動とは「失敗すること」だ。
 AIの最大の特徴は、膨大なデータから知識を得て、正解を導き出すことである。AIは「失敗」を避けるように設計されており、計算ミスや過去のデータを無視して無茶な挑戦をすることはない。効率よく、最短でゴールに辿り着く。それがAIの凄さだ。
 一方で、私たち人間はどうだろうか。人間は驚くほど多くの失敗をしてしまう。テストでケアレスミスがあったり、朝早く起きれず、約束に遅れて落ち込んだりすることもあるだろう。効率という点で見れば、人間はAIに到底及ばないかもしれない。しかし、人間は、失敗という泥の中から、想像もできない可能性を拾い上げることができる。それこそが、人間の唯一無二な創造力であると考える。
 中学二年生の時のことである。ある日、私は美術の宿題で電車の車内を描いていた。こだわっていたのは、赤色のソファーだ。より完成度を高めるため、慎重に色を塗っていたのだが、筆に水分が多く残りすぎて、赤色の絵の具が意図しない場所に垂れてしまった。「台無しだ」と絶望した。描き直す時間もなく、途方に暮れながらその垂れた跡を見つめていた。すると、私の絵を見た父が私に、「上手いやん。特に影。」と声をかけてくれた。その一言で、私の目には偶然できた色の濃淡や垂れた形が、窓から差す光の反射と、それによって生まれる影のように見えてきたのだ。見えてきた風景を具体化するため、周囲の色を調整してみた。すると、その絵は最初よりも、ずっと温かみのある、私だけの一枚になった。もし私がAIなら、このミスは生まれていなかっただろう。そして、恵みの雨みたいな父の一言が、この作品を創り出したのだ。
 こうした「失敗を価値に変える力」は、古くから日本人の知恵として受け継がれてきたものなのかもしれない。実は、日本の食卓に欠かせない「納豆」も、失敗から生まれたものだと言われている。一説によると、平安時代の戦の最中に、藁に詰めた煮豆が馬の体温で蒸れて腐ってしまったらしい。しかし、当時の人々は「腐らせた」という失敗で終わらせず、「好奇心」という武器を持って食べ、納豆の魅力を発見したのだ。私の絵に垂れた絵の具を光の反射に見立てたように、彼らもまた、失敗の中に価値を見出したのだ。もし、当時の人々が完璧さしか求めないAIのような存在であったなら、それを見た瞬間捨てていただろう。失敗を面白く感じたり、工夫したりできる私たち人間は、きっとつまずいても立ち止まることなく、そこから新しい可能性を作り出せるだろう。これこそが、私たちの持つ一番の強みなのだ。
 失敗をすると、私たちは悩み、落ち込んでしまう。そして、なぜ駄目だったのかを考え、次はどうすれば良いのかをまとめ、行動する。この「試行錯誤」こそが、完成した時の喜びを大きくし、物事に人間らしい「思い」や「熱量」を宿らせるのではないだろうか。私たちが誰かの言葉や行動に心を打たれるのは、そこに「失敗を乗り越えてきた証」があるからなのだ。
 これからの時代、計算や情報の整理といった「正解を出すこと」はAIに任せれば良いのかもしれない。だからこそ、私たちは失敗することを恐れてはいけないのだと思う。
 思い通りにいかないこと。想定外のミス。それらは決して恥ずべきことではなく、人間にしか生み出せない「可能性の種」なのだ。私たち一人ひとりは、その種を大切に育てる農夫なのかもしれない。たとえ失敗をして、その種が地面に落ちてしまっても、私たち人間は、それを拾い、新しい価値に変えることができる。不器用でも、泥臭く何度もやり直せる。そして、その挑戦を温かく見守り、転んだ時に手を差し伸べあえる。そんな繋がりこそが、AIには真似できない、人間の持つ強さであり、美しさなのだと私は信じている。
  「私たちにしかできないこと。」それは、失敗という「可能性の種」を根気強く拾い、蒔き続け、試行錯誤という水を注いでいくことではないだろうか。自分で芽吹かせた未来は、きっと強く、美しいものなのだろう。私はこれからも、私の持つ可能性の種で、私にしか創れない未来を、誇り高く芽吹かせていきたい。

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