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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

福岡県知事賞

タイムカプセル

久留米市立  田主丸中学校3年鹿野 友加里

 ギィー……。

 力無く押した扉。古びた鉄と鉄が耳を劈くような音を奏でた。塗装されたブランコとすべり台。見たことのない雲梯。錆のついた鉄棒と年老いた楠は相変わらずであった。

 その日は、幼稚園の同窓会があった。卒園の時タイムカプセルを作り、中学二年生の夏にみんなでそれを開ける。というのが私の通っていた幼稚園の最後のイベントだった。教室に入ると、見慣れた顔がたくさんあった。それもそのはず、集まった大半は私と同じ中学校の人だった。出席者が全員集まって、会が始まった。幼稚園児の頃はすごく広く見えた教室も、中学二年生が四十人以上入ると、さすがの圧迫感があった。間もなくして、会食が始まった。おにぎり、焼き肉、レバニラ……。給食のおばちゃんの作ったという豪華な料理は、幼稚園の頃の優しい薄味の給食とは似つかない濃いめの味付けであった。成長期である中学生にはぴったりだった。テーブルは男子と女子で分かれていた。女子は、ファッションや好きな芸能人……ではなく、自然と幼稚園の頃の思い出について話していた。運動会でのかけっこ、みんなでした合奏、発表会でのダンスや劇。どれも些細だけど、大切な思い出であった。

 そして話題は、自然とタイムカプセルの中身が中心となった。幼稚園の頃の写真、連絡帳……。母と一緒に、中身を決めた八年前。決めるのが楽しくって、わくわくして……。でもどこか寂しくて。甘いイチゴとすっぱいグレープフルーツが同時に喉の奥ではじけるような不思議な気持ち。忘れたことなんてなかった。一瞬、母の顔が脳裏をよぎる。今では口喧嘩ばかりしている気がした。まだまだ無邪気だった頃。毎日が楽しかった。あの頃に戻りたい、と思う。不可能な話だが。

 「じゃー、そろそろタイムカプセルの中身配るよー。名前呼んだら取りきてねー。」

年長組のとき担任だった先生がそう言った。

教室内がひときわ騒がしくなる。

「ゆかりちゃん」

懐かしい先生の口から私の名前が出てきた。少し早足で先生の所へかけよる。白をベースとした紙袋には、かわいいイチゴの絵。私のタイムカプセル。この中に、八年前の思い出が入っている。ドクン、と心臓が波打った。先生が、その袋を私の手にのせた。心なしか、袋はほんのりとあたたかく、ずっしりと重く感じた。席に戻り、袋の口をとめているテープをはずした。懐かしい香りが漂った気がした。五十枚程の写真。アルバムの中に眠っていたそれら全てに、幼い私がいた。一枚一枚見ていくたびに、その写真の時の映像が流れていく。色あせた連絡帳。三年間分、入っていた。ああ、そういえば私は三年間皆勤賞だったなぁ。賞状とプレゼントがもらえるのが嬉しくって、頑張っていた。お疲れ、私。そんなことを思いながら、袋をのぞくとまだ中に何か入っていることに気づいた。それをとろうとする。……封筒らしきものが見えた。不思議な予感。そっと手をひっこめた。しばらくして、会は幕をとじた。生暖かい風の吹いていたグラウンドは静かな闇へと化していた。

 「ただいまー。」

家に帰り、真っ先に自分の部屋へ向かった。バッグの中のタイムカプセルを取りだす。アルバムでも連絡帳でもない、何か。やはり、八年前の私と父と母からの手紙だった。見間違いではなかった。きっと母が入れたのだろう。そっと、私からの手紙をひらいた。

「ちゅうがくせいのわたしへ

いまなにしていますか。なにおがんばっていますか。わたしはそつえんしきのれんしゆうをしています。がんばっているのはなわとびです。……」

所々、誤字があり、読むだけで一苦労の手紙。昔の自分がかわいく思えた。今では縄跳びなんて嫌いなのだが。最後の一行が目に入った。

「…わたしわやさしいおねちゃんになりたいです。」

言葉にならないものが込み上げてくる。四歳の時、弟が生まれて九歳の時に妹が生まれた。後から生まれた妹の方がかわいく感じ、それまでかわいがった弟への態度は一気に冷たくなった。昔の私を思い出す。あの時は弟が大好きだった。今は……。今でもその思いは変わらない。しかし、女子と男子ということもあって大きくなるにつれ心の距離ができてしまった。かわいい方が上なんかではない。二人共、私の大切な兄弟だ。忘れかけていた大切なことを思い出した。

 そして、その後父と母からの手紙も読んだ。二人共、書いている内容は違ったけれど、一つだけ重なった文があった。

「……これからもずっと大好きだよ。」

甘いイチゴとすっぱいグレープフルーツが同時に喉の奥ではじけた。……どうやら今回のグレープフルーツはしょっぱいらしい。気づいたら大粒の涙を流していた。たくさんの感情が入り混ざった涙。とめどなくあふれてくる。中学校に入って、家族と会話することが少なくなった。反抗期、かもしれない。私をここまで育ててくれたのは家族だというのに。近くても遠くても変わらない愛。世界中の誰もが誰かを愛し、愛されている。一番大切なことを思い出した。幼い頃の私が笑う。……縄跳び、しようかな。東の空で朝日が輝いた。

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