みんなのために

「足の骨折です。一ヶ月は運動できません。」

　医者にそう告げられたのは、ソフトボールの秋季リーグ戦の真っ最中。僕は、二年生の頃からソフトボールに打ち込んできた。副キャプテンでキャッチャー、打順は三番。最後のリーグ戦。それなのにー。試合に出られなくて、後から後から涙が出てきた。

　僕の代わりの五年生のキャッチャーに対して、試合中大きな声を出してアドバイスした。それが、僕にできる精一杯のことだった。でも、試合は負け。リーグ戦が終わった。この二年間レギュラーとして試合に出続けてきたのに、くやしくてくやしくてたまらなかった。

「もう一回、試合ができるぞ。」

　監督に聞いて、ギプスをしていることを忘れてとびはねた。

　ついに、ギプスが取れる日がやってきた。

「やっと取れる。自由だ。」

それなのに、ギプスを取った後の足は、全く動かなかった。このままでは、試合に間に合わない。リハビリを始めたものの、痛くて一人で立つことさえできなかった。

　そんな時、母が声をかけてくれた。

「一緒に歩く練習をしよう。」

僕のうでを持って、一緒に歩いてくれた。でも、たった十メートル進むのに三十分もかかってしまう。思わず母にどなってしまった。

「こんなことしたって、無だやん。」

　それなのに、次の日も母はさそってくれた。

「一緒に歩こう。」

「やったって無だやん。どうせ間に合わん。」

あきらめかけている僕に、母は教えてくれた。

「今回の試合は、ただ試合が追加されたっちゃないとよ。試　合に出られなかったりゅうのために、監督やコーチが特別　に入れてくれた試合なんよ。それなのに、りゅうはあきら　めるとね。それなのにー。」

僕が試合に出ることを心待ちにしてくれている母や父はもちろん、監督やコーチ、チームのみんな、チームのお父さんやお母さん達の喜ぶ顔がうかんできた。胸が熱くなった。

　僕は今まで、骨折をした自分が一番かわいそうと思っていた。でも、それはまちがっていた。母は、夜おそくまで仕事をしているのに、毎晩僕を支えて一緒に歩いてくれた。

「大丈夫、大丈夫。」

と言いながら、毎晩マッサージもしてくれた。父は、いつもリハビリに付き合ってくれた。

「りゅう、お前なら必ずできる。」

と、僕に力もくれた。双子の兄は、ランドセルを毎日持ってくれた。クラスの友達は、掃除や給食当番を僕の分までやってくれた。コーチは、試合に出られるように特別にノックをしてくれた。チームのみんなは、がんばれがんばれと応援してくれた。

　母から教えてもらったことで、今まで当たり前だと思っていたことが、みんなに支えられていたことだったと気付いた。僕は、自分のためじゃなく、僕を支えてくれる人達みんなのために絶対に試合に出ようと心に決めた。

　今、僕はグラウンドに立っている。

「りゅう、がんばれ。」

笑顔で応援してくれているみんなの声が、今日も聞こえてくる。