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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

福岡県知事賞

希望の鐘

うきは市立  御幸小学校5年浦塚 珠

 ゴーンーーゴーーン、……。

 私は毎年、除夜の鐘をつきながら、その年に起こったことをふり返ります。今年は、静かになみだを流しながらふり返りました。

 七月五日、私の祖父が住んでいる朝倉市をごう雨がおそいました。祖父の家や田畑にも、あっという間に水があふれました。命はうばわれなかったものの何もかも流されて、笑顔まで失ってしまった祖父と祖母の悲しそうな後ろ姿が、今でもありありと思い出されます。

「災害は、人の命をうばう恐ろしいものだ。災害をもたらし た自然を責めることはできないが、くやしい。」

祖父が何度も口にしていたこの言葉が、今でも忘れられません。いつもは大きく見える祖父の背中がとても小さく見えて、不安でたまりませんでした。

 実は、毎年鐘をつきにきているこのお寺も、災害にみまわれた場所の一つです。土砂が境内の中にまで流れ込んできて、鐘も半分以上はどろにうまっていたそうです。ところが今は、ライトアップされていて、見ちがえるようにきれいになっています。この何か月かの間に、地域のみんなで力を合わせてきれいにしたそうです。

 災害から見事に立ち直ったお寺を目の前にして、鐘をつきに来た人たちはどんなことを祈っていたのでしょうか。きっと、「みんなで力を合わせて、自分たちも……。」という思いを強くしながら手を合わせていたのだと思います。だから、となりにいる母の目が真っ赤になっていたわけもわかるような気がして、私もなみだぐんでしまいました。そして、

「今年は幸せな一年になりますように。」という願いを込めて力いっぱい鐘をつきました。

 土砂が流れ込んだ祖父の田んぼも、少しずつきれいになってきました。落ち込んでいた祖父の背中にも、元気がもどってきたように思います。この頃、祖父が口ぐせのように、みんなに言っていた言葉があります。

「命があるだけでありがたい。今から少しずつ前に進んでい こう。」

この言葉を聞いて、今年は祖父の米作りが手伝えるといいなと思いました。一緒に田植えをしたり、稲刈りをしたりした後に、ごほうびのジュースを飲みながら、祖父の昔話をきくのです。そういうのが、本当の幸せなんだなと今ならよくわかります。

 お寺からの帰り道に、母がみんなを引き寄せて言いました。

「去年はいろいろつらいことがあったけど、きっと今年はい い年にしようねっ。」

さっきはなみだを流していたくせにと思ったけど、そのとおりだと思いました。本当に大変な年でしたが、最後を希望の鐘でしめくくることができました。上を見ると、空一面に星が明るくかがやいていました。

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