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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2024年度 第60回 受賞作品

福岡県知事賞

ひとり

福岡市立  多々良中学校1年照井 優人

 「これで部活動紹介を終わります。」
えっ。体中から血の気が引いた。次か次かとわくわくしながら待っていた、一番知りたかった部活動の紹介はなかった。
 僕には夢がある。それは、古生物学者になって新種の恐竜の化石を見つけ、研究し続けることだ。
 今年も福井県立恐竜博物館で日本の恐竜化石の発掘状況を確認したり、国内最大級の肉食恐竜の歯が展示されていると知れば、離島の御所浦恐竜の島博物館で化石の観察をしたりした。恐竜化石が発見された場所に行って、化石探しもがんばっている。しかし、僕には不安なことがあった。海外で恐竜の研究がしたいのに、英語が全く話せないことだ。そんな不安を抱えていた小学六年生の頃、中学校から配られた部活動紹介の説明ページにその部活はあった。「英会話部」これだと思った。不安だった気持ちが一気に晴れ、その部活は救いの女神のようだった。小学校卒業間際、中学生になったら何がしたいと聞かれたら、
「英会話部でがんばりたい。」
と、意気揚々と答えていた。
 四月、中学生になり、先輩達による部活動紹介が行われた。そこに英会話部はなかった。その後始まった体験入部期間。心がモヤモヤして浮かない顔の僕に、母は、
「何かの部活動には絶対に入らないと。」
と、強く部活動に入ることを勧めてくるので、三つの部活動を体験してみた。どの部活動の先輩も優しく楽しかった。一緒に体験した友達はどんどん入部届を出していく。僕はまだ、入部届を出せていない。悩んだ。僕が部活動に入る理由は何だったか。そうだ。大好きな恐竜の研究をしたいから英会話部に入ろうと思ったんだ。
 あきらめきれない。担任の先生に相談すると、英会話部はあるにはあるが、現在部員が誰もいないこと、一年生の希望者もいないことを教えてくれた。仮に入部した場合は顧問の先生が対応してくれるとのことだったが、やはり生徒が誰もいないと英会話をすることは部活動として非常に難しいと思えた。
 そして僕は決断した。部活動には入らない。けれど、決して英語をあきらめたわけではない。ひとりでも出来る方法を考えた。
 部活生が部活動をやっている時間に、僕は英単語をやると決心した。学校から帰宅後、単語帳の英単語を一日五個覚える。次の日、また五個覚えた後、単語十個のテストをする。さらに次の日はテストで間違えた単語と新しい単語を五個覚える。通信教育の英単語アプリも毎日やる。流れてくる英語の発音を復習し、単語を覚える。この繰り返しだ。
 そして、英会話スクールに通うことも決めた。外国で英語を話せるようになりたいので、外国人だけの先生、オールイングリッシュで日本語を一切使わない英会話スクールを探し、通い始めた。ネイティブな先生達は、速いスピードでしゃべってくる。本場の英語を初めて聞いた僕は、先生が何を言っているか、さっぱり分からなかった。僕の発音する単語は、全部「NO」「NO」と言われた。でもそれがうれしかった。出来ないことが出来るようになると絶対に気持ちいいからだ。
 そして、部活動のあるみんなには、大会という目標がある代わりに、僕には、英語検定の日を大会と思うように決めた。十月にあった大会、つまり検定試験は近くの高校に行って受験した。結果は合格し、一回戦は勝利した。勝利後すぐに、次の大会に申し込んだ。小さな目標を設定したことで、ひとりでもモチベーションを上げることができた。
 英会話教室に通って約九か月になる。外国人の先生との会話は、本当に少しだけれど、聞き取れる単語が出てきた。わからないときはジェスチャーなどをしながら質問している。ちゃんと会話できたときは、心の中でガッツポーズしている。
 古生物学者になる夢を一番応援してくれていた東北に住む祖父は、テレビであった恐竜番組をDVDにしたり、恐竜のことが書かれた新聞記事を切り抜いたりして、何度も郵送してくれた。僕が恐竜の話をしたら、ほとんどの人はあきれ顔になってくる。でも祖父だけは、なんだかうれしそうに、何十分でも何時間でも聞いてくれた。今年の夏休みに会いに行ったときも、
「夢をもっていることは、本当に素晴らしいことだよ。」
と応援してくれた。一緒に花火をしたり、かき氷を作って食べたり楽しい時間を過ごした。空港まで車で送ってくれて、見送りのときにぎゅっと握手した。その一か月後の九月末、祖父は病気のため亡くなった。最後にくれた手紙には、「大きな夢をもって、元気にね」と書かれていた。
 おじいちゃん、僕はひとりだけど、恐竜たちに会うために、夢をかなえるために、今できることを精一杯がんばっているよ。
 ひとりだと、正直言うと、今日はやる気がないからやめておこうとか、これでいいのか不安になることもある。でも、部活動に入らないと決めたのは自分だから、弱い気持ちに負けないように、くじけずがんばっている。
 夢を応援してくれた祖父の言葉を胸に、歩幅は小さくても、毎日一歩一歩、夢に近づいていると信じて。ひとりだけど、ひとりでもやれることはあると、僕は思う。

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