2024年度 第60回 受賞作品
福岡県知事賞
「魔法の言葉」
宇美町立 宇美小学校6年太田 凜
「わからないことはなんでも聞いてね。」
そんな魔法の言葉で緊張してこわばっている顔は緩み、肩からも少し力が抜けたような気がした。幼稚園、年長のときに先生はいつも
「年長さんなんだからちゃんと自分で考えて動いてください。」
と言っていた。そのせいか「自分でできることは自分でする。」と、心に決めていた。そして初めての小学校。クラス分けの表が貼ってある。あまり同じ幼稚園の友達がいない。不安で不安でしょうがない。教室に入るまでは大きなお姉さんとお兄さんが歩いて連れていってくれた。初めての自分のクラス。一歩足を踏み入れると外が肌寒かったからかクラスの中が暖かく、少し安心した。そうするとクラスまで連れていってくれたお姉さんが、
「大丈夫?」
と優しく聞いてくれた。でも、緊張していた私は、そのお姉さんが何を言っているのか分からず、黙ってしまった。申し訳なさと、もう話しかけてくれないかもしれないという緊張で下を向いていると、そのお姉さんは自分と目線を合わせるためにしゃがんで、近くで
「わからないことはなんでも聞いてね。」
と言ってくれた。どんなに緊張していても、安心するだけでこんなに居心地が変わるんだなとそのとき思った。
緊張してこわばっている顔は緩み、肩からも少し力が抜けたような気がした。その後も、何回も何回も励まされ、ほめられ、そのお姉さんのお陰で楽しい一年間になったと思うほどだった。最初は、「何でも一人」でしようとしていたのに、 いつからか、「わからないことがあったら頼ってもいい」になっていた。それから夏休み、冬休み、卒業までのカウントダウンカレンダーがすべてめくれた頃、お姉さんとの最後のお別れとなった。クラスの中はいつもより緊張気味だった。すでに泣きそうな子や、自分は悲しくないというアピールをしているのか、いつもよりテンションが高い子もいた。そこへ、六年生のみんなが入ってきた。みんな笑っている。そうすると、先生は
「六年生の皆さんには一年間お世話をしてもらいました。一年分の感謝を今、伝えてください。」
私はすぐ、六年生のお姉さんの所へいった。嬉しかったこと、励まされたこと、まだ一緒にいたいけど中学校でも頑張ってという気持ちを伝え、最後に
「私もそんなお姉さんになれるかな。」
一番言いたかった言葉。そんな言葉にお姉さんは、
「きっとなれるよ。」
なんだかいつもよりあっけなかったけれど、とても嬉しかった。
そして「今」の私はもう六年生になった。桜が踊るように舞っている。あの時のように外は少し肌寒い。私は校庭で、「入学おめでとうございます」と、書かれたポスターを抱えて、お母さんとしっかり手を繋いでいる一年生に微笑みかける。教室に戻り、新しい一年生を歓迎する会へ行く。私と手を繋いでいるのは一年生だ。あの時の言葉を胸に話しかける。
「わからないことは何でも聞いてね。」