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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

思いを言葉に

うきは市立  吉井中学校1年篠原 維知子

「礼儀」とは、人を敬う気持ちを表すことであり、また、礼儀を大切にする行動の一つに「敬語」があります。私は、相手を思いやる気持ちをもって、礼儀正しく敬語を使っていきたいと思っています。
 私がそう思うようになったのは、四月、吹奏楽部に入部したときの経験がきっかけです。入部して初めて、全員で顔合わせをしたとき、最初に先輩から言われたのが、「先輩には敬語を使うこと」でした。私は、「です」「ます」を使って話せばいいだけだから簡単だろうと軽く考えていました。また、小学生のときは、上級生にわざわざ敬語で話すことがなかったし、先輩とはいっても、年も一つか二つしか変わらないので、敬語を使う必要性もあまり感じていませんでした。
 そんな気持ちだったからなのか、いざ先輩に対して敬語を使う私は、とてもぎこちなく、また、どこかわざとらしい感じがしていました。それに比べて、二年生の先輩が、敬語を使って三年生の先輩と話している様子を見ていると、どちらも笑顔で話しています。
「先輩、この曲の最後の方はどんなふうに吹いたら良いですか。」
「その部分は、強弱記号がついているから、抑揚をつけて、盛り上がるように吹いたら良いと思うよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
先輩たちのこの会話とは違い、私の場合は、敬語は使っているけれど、部活のことについて話す中では、私も先輩も、あまり笑顔ではありませんでした。同じ敬語なのに、私と先輩では大きな違いがあるように感じたのを今でも覚えています。
 部活動初日を終えた日の夜、私は家で母に、「先輩には敬語を使うこと」と言われたことを話しました。すると母からは、
「私も仕事でたくさんの人と関わるけど、年上の人でも年下の人でも敬語を使っているよ。」
と返ってきました。私は、敬語というものは、自分よりも年齢が上の人に対して使うものだと思っていたので、母が年下の人にも敬語で話していると知って、驚きました。母の話を聞いて、敬語を使うことと年齢の差は、あまり関係がないのかもしれないと思いました。そういえば、以前、父も
「仕事で子どもたちと関わるときも、大人と話すのと同じように敬語を使って、丁寧に話すようにしているよ。」
と言っていたことを思い出しました。父からそのことを聞いたときは、仕事だからそうしているのだろうと思っていたけれど、母の話と合わせて考えてみると、敬語を話す理由はそれだけではない気がしてきました。
 私は改めて、父に、なぜ子どもたちにも敬語で話すのか尋ねてみました。すると、父は、
「敬語を使うことで、相手への思いやりや、その人を大切に思う気持ちを伝えたいからだよ。」
と答えました。父は「です」や「ます」という言葉には、思いやりの気持ちが込められているというのです。その話を聞き、私はこれまでの敬語に対する考え方が変わりました。両親の話を聞いてから、私は、「敬語はただ言葉の使い方を変えればよい」というわけではなさそうだと考えるようになりました。
 それから数か月、吹奏楽部三年生の最後のステージの日、私の敬語に対する考えが確かなものになりました。吹奏楽部では、最後の演奏を終えた先輩方に、後輩からメッセージを伝えるのが伝統です。そのとき、二年生の先輩が、今までの思い出や感謝を涙ながらに伝えている姿に、私は心を打たれました。
「今までありがとうございました。先輩に分からないところを聞いたら優しく教えてくださって、とても嬉しかったです。引退してしまうのはさみしいですが、教えていただいたことや先輩との思い出を忘れずに、これから頑張っていきたいと思います。」
この言葉や涙を流す姿から、私は二年生と三年生の関係の深さを感じながら、先輩が三年生の先輩にごく自然に、笑顔で敬語を使っていた入部当初のことを思い出していました。あのときはなぜ同じ敬語でも私と雰囲気が違うのか分からないままでした。でも、今考えると、二年生の先輩と私とでは、敬語に込める思いが違うからなのだと、腑に落ちました。敬語を使うことの意味は、相手に気持ちを伝えようとする優しさにあると分かりました。
 敬語には、思いを言葉に乗せて相手に伝えられる力があります。敬語を使う上で一番大切にするべきなのは、やはり、相手を思う気持ちだと私は思いました。「敬語」がもつ力を知っていれば、相手に対する気持ちをもっと伝えられるはずです。だから私は、これから、使わなければならないから敬語を使うのではなく、相手への思いがあるから敬語を使うのだ、という意識をもって、日々を過ごしていきたいと思います。

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