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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

全共連福岡県本部運営委員会会長賞

この声が届きますように

福岡市  金山小学校5年新井 悠樹

「火の用心。」

 乾いた空気にたくさんの声が響き渡る。

「カンカン。」

後をおいかけるように拍子木の音が鳴った。

「マッチ一本、火事の元。」

ぼくは、誰にも負けないくらいの大きな声をはりあげた。

 今年、母が児童会の役員をすることになった。今までは参加しなかった地域や学校の行事に人数集めや時には手伝いとして加わることが増えた。十二月三十日にある夜けいもその行事の一つだ。僕の家は毎年、この時期は母の実家に帰ってこたつに入り、おじさんや弟とゲームをしたり、テレビを見たり、話をしたりと、まったりと過ごしている。けれど、今年は年内最後の仕事をして、町内をぐるっと一周声を掛けながら練り歩くのだ。

 かい中電灯の明かりが暗い夜道を照らす。外灯の明かりもあって、天気も良いから星や月の光も。しかし、冬の夜は静かで、とても寒い。真っすぐに伸びた手元の、かい中電灯の光だけがずいぶんまぶしく感じられた。

 半ばいやいや参加し、気分もふさぎぎみのぼくは、何のために声を出しながら町内を歩いて回るのかを母に質問した。年末に火事を起こすと家で年こしが出来なくて困ること、お年寄りの多いこの地域では一人だったり、夫婦の二人だったりでつい火の元がおろそかになったりすること、それに地域の子供たちの声が家の中まで聞こえてくればほっこりとあたたかい気持ちになるだろうという回答が母から返ってきた。それをきいたぼくは家の中のテレビの音や、料理の音、人の話す音に負けないように大きな声を張り上げる。

「火の用心。」

十三人ぐらいのグループに分かれて内回り外回りと両方から歩いているので、反対側の人達にも届けと思いながら声を出した。それに呼応するように、もう一方のグループの声も、だんだんと大きくなっていった。

「ガスの元栓、しめましょう。」

二番目の言葉は火事の原因となりそうなものに変えていく。ぼくたちの声が届いて注意してくれればいいなぁと思うことを次々に発信していくのだ。始めは暗くて寒かった道のりも、声を出して歩くことでうっすらと汗ばむくらいに暑くなり、続く道がはっきりと見えてきた。かい中電灯の明かりも必要ないくらいだ。

 声を出したぼくがあったまったように、ぼくたちの声も届いた誰かに寄りそって、ほっこりとした気持ちになってくれればぼくは、うれしい。

「この声が届きますように。」

思いを込めてぼくは、ひときわ大きな声を夜道に響かせ、進んでいった。

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