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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2021年度 第57回 受賞作品

西日本新聞社賞

言葉のかべを乗り超えろ!

国立大学法人  福岡教育大学附属福岡小学校6年山根 萌維

 「Do you need a drink bar?」いつものように父が私に話しかける。周りのテーブルの人達がこちらを見ながらひそひそと話し始める。私は構わず「No」と答えた。家族連れでにぎわう夕方のファミリーレストランで、父と私が二人きりになったような気分。英語を話すこと自体は何とも思わないけれど、人からジロジロ見られることにはいつまでたっても慣れない。
 私の父は日本語が話せない。だから、家族で話す時は、いつも英語で話している。ちがう言語で話すとなかなか伝わらない時もある。例えば分数。日本語では分数を読む時、「二分の一」のように分母から数字を読み上げていくが、英語では「one over two」と分子の方から数字を読み上げるルールになっている。このことを知らなかった私は、父に算数を教えてもらう時にとても困った。
「なぜハーフなのに、あまり英語が得意じゃないの?」そう思う人がいるかもしれない。その理由は、両親の教育方針にある。人は幼い頃から二つ以上の言語を同時に学ぶと、いくつかの言語が混ざってどちらもうまく話せなくなることがあるらしい。実際、私には言語混乱を起こして、日本語も英語もきちんと話せない友達がいる。父は私と話せなくなってもいいからと、日本語の教育を優先してくれたのだ。
 二年前、私の教育のため、父は言葉が通じない日本へ引っこしてくれた。買い物に行っても、パッケージが読めなくて欲しい物が買えなかったり、英語の本があまりないから、読みたい本が読めなかったり、私の知らないところで、たくさん不便な思いをしていると思う。また、新型コロナウイルスで国に帰れなくなったので、友人や家族に会えなくなった。それでも父は、何一つ文句を言わずに、私達と日本で生活してくれている。
 雨の日も、風の日も、父が苦手な寒い日だって、父は自転車で習いごとの送り迎えをしてくれた。中学受験が決まってからは、毎日のように算数を教えてくれた。もちろん、言葉のかべがあって、英語で算数を習うのは私にとっても容易なことではない。だけどそのハンデを乗りこえられるように、父は工夫しながら、何度も何度も根気強く教えてくれている。父の方が大変なことがいっぱいあったかもしれないのに、いつも私のことを支えてくれた。父には感謝してもしきれない。
 ある時、私はグーグルほん訳を使って父と会話することを思いついた。グーグルほん訳があれば、父とスムーズに話せるのではないかと思ったのだ。早速、スマホでほん訳して父に見せた。しかし結果は大失敗。慣用句の「瓜二つ」を入力したけれど、「two melons」と、デタラメな英語にほん訳されてしまったのだ。これでは、伝えたいことが伝わらない。
 父に、英語でお礼を言いたい。父といっしょに英語の映画を見て、感想を言い合いたい。父が外出先でコミュニケーションに困ったら、私が通訳してあげたい。これからもっと英語を勉強して、言葉のかべを乗りこえたら、いつか父とたくさん話をしたいと思う。

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