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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2020年度 第56回 受賞作品

日本農業新聞賞

母の「朝活」

篠栗町立  篠栗北中学校3年西田 帆乃樺

 まだ暗い部屋の中、私はスリッパの音で目が覚める。母が四時に起き、食器を片付けたり、仕事へ行くためのしたくをしたりしているのだ。
 私がベッドから体を起こし、部屋のドアを開けて母に挨拶をすると、いつも笑顔で
「おはよう。」
と返してくれる。書きだしたするべきことをすべて終わらせると、母は満足げに私に話しかけ、そっとドアの前に立つ。
 母は今日も充実した朝だったと目を輝かせて玄関を出る。その後ろ姿を見送ったあと、私も続いてバッグを背負い、登校する。
 私が小学生のある時期、教卓にいる先生はよく眉間にしわを寄せていた。教室に鳴り響く先生の怒鳴り声に怯え、いつも身を縮こまらせていた。
 辛い現実から逃れたくて放課後はいつも長い時間、携帯やテレビを見た。動画やアニメが当時の私を救ってくれる唯一の存在だった。
 母や父が寝た後、宿題をして寝る。これが当時の私の習慣となってしまった。
 この頃、私は睡眠時間が短いため、不機嫌で怒りやすかった。母に冷たく接してしまったり、八つ当たりしてしまったりした。
 そんな生活が続いていたある日、母が「朝活」を始めた。夜九時に寝て、朝四時に起き、出勤するまでの時間に家事や勉強をするのだ。特に勉強では、エクセルの使い方を学び、仕事を効率化させたり、英語の勉強を熱心に始めたりした。母は、朝の時間を使って、多くの本を読めるようになり、より勉強の幅を広げられるようになったという。
 だが、一体なぜ母は「朝活」を急に始めたのだろうか。そういえば以前、母とこんな会話をした。
「なんでママはそんなに若いの?」
「ほのに置いていかれたくないの。ママもほのと一緒に成長していきたい。」
母はその言葉どおり、私にとって年の離れた姉妹のような、親友のような存在で、全く年齢を感じさせない。むしろその逆で、母は歳を重ねていくごとにパワフルになっていく。
 「朝活」が母に与える影響はとても大きかった。娘の私からみても生活リズムを整えようと努めることで元気に過ごすことができているし、以前よりも自分のしたいことを活発にしているような気がする。また、精神状態が安定するのか、母の寛容さや優しさが増していったようにも感じる。
 なぜなら、私がイライラしたり、不安になったりしていると、「大丈夫よ。」と声をかけて、自分の失敗話を聞かせてくれるからだ。とても大きなミスを面白おかしく話すから、聞き終わる頃には自分の悩みなんてどうでもよく思ってしまう。
 そんな母に憧れて、私も「朝活」に挑戦してみたくなった。母ほどきちんと生活リズムを守ることはできないけれど、私も十時に寝て六時に起きることを努力している。そうすることで、前よりも笑顔でいられる時間が長くなり、不機嫌になることが減った。たった寝る時間や起きる時間を意識しただけなのに、少しずつ自分が変わっていった気がした。心に余裕ができたから、相手の気持ちを考えて発言しようと心がけ、母との喧嘩も徐々に減っていった。そのため、好きな自分でいられる時間が長くなった。
 もしかすると、自分の人生をよりよいものに変えてくれるのは小さなことなのかもしれない。時には生活リズムだったり、時には体を温めることだったり。
 さらに、母のそばにいて分かったことが一つある。それは、今から始めて遅いなんてことはないということだ。母は四十歳で新たなことに挑戦し、私に勇気と可能性を与えてくれた。まだ中学生の私が何にも挑戦せず、最初からできるわけがないと諦めてしまうのは惜しいことなのではないか。
 私に残されている人生はまだまだずっと長い。だが、この時間をいかに使うかはとても重要な問題だと思う。携帯電話やテレビばかりを見て時間を過ごすより、自分の好きなことやチャレンジしたいことに時間を使い、たくさん失敗して有意義な時間を過ごしていきたい。
 実は、今の私には夢がない。人生の大半を費やしてしたいことを、まだ働いてもいないのに決めるなんてこと到底できる気がしない。ただこれで良いのだと思う。自分の本当に好きなものが見つかったら、その目標に向かって一生懸命頑張ればいいのだと思う。今は夢を見つけるために挑戦してみたいことに何度もトライし続け、たくさん間違えて、失敗から多くのことを学んでいったらいいのだ。
 今日も私はスリッパの音で目覚める。

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