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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

日本農業新聞賞

指揮台から見た景色

久留米市立  田主丸中学校2年前田 心音

 「最優秀賞、二年二組」
私は、この瞬間今までにない達成感を味わうことになった。臆病者で、前に立つことが苦手で、すぐ諦めてしまう、挑戦をすることに抵抗があったこの私が……。
 十月十三日、土曜日。この日は私にとって忘れられない日だ。文化祭。二年二組のメンバーで歌う最初で最後の合唱コンクール。今回の合唱で私は習っているピアノの先生からの薦めで自信がないながらも指揮者という大役を務めた。最初は「あ、思ったより簡単だな」とか「まあ、リズムに合わせて振っておいたらいいだろう」としか考えていなかった。まだ私は、この後に苦労をすることを知らなかった。私のクラスの二年二組は日頃から元気が良く、いつでも、どんな時でも笑いが絶えないクラスだ。このことから分かるように合唱練習でも私語などが多く、なかなかまとまりを作っていくことができなかった。しかし、そんな中でもパートリーダーらが中心となって練習を進めることができた。時には、帰りの会が終わった後、全員窓の方を向いて大きな声で歌う練習をしたりもした。私はその時間が一番好きだった。皆が指揮を見ずに歌うからだ。やはり自分は弱い。臆病者だ。こう思いながら何も行動に移せず現状維持のままの自分がいた。文化祭が近づいてきたある日、体育館で練習していた時初めて、指揮、伴奏、歌のリズムが「ずれた」。今までは一度もずれることはなかった。しかし、この時はじめてずれたのだ。合唱中、私は「ずれ」に気付くことはできていた。しかし、再度リズムを合わせることはできなかった。初めてのことだったから頭が混乱していたのだ。どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、
「どうしよう!」
どうにかしようと焦っているとさらにリズムがずれていく。合唱が終わると、皆がざわざわし始めた。
「今の指揮がおかしかったよね。」
「いや、男子と女子がずれたんでしょ。」
私はクラスが崩れていくのが分かった。教室に戻っても、
「なんでさっきずれたと?」
「指揮がずれとったけんやろ。」
という声が飛び交っていた。この時になって自分の甘さ、臆病さに気付いた。悔しくて泣きそうになったのをグッとこらえた。しかし帰りの会が終わり教室を出ると涙があふれ出して止まらなかった。こんなに泣いたのはいつの日ぶりだっただろう。次の日学校に行くことをためらったくらいだ。でも自分は負けなかった。絶対に自分に負けたくなかった。家に帰ってすぐに練習をした。目の前に皆がいることをイメージして、いつもどおり、いつもどおり。練習をしていくうちに体に染みこむようにリズムができていった。次の日、私は胸を張って学校に行った。練習が始まったとき、少し不安だったけど、伴奏が始まると自然にリズムに乗れた。皆がいつもどおり歌っているのを見るととても安心した。終わった後、
「今日はずれんかったやん!」
という声が聞こえ、より安心した。本番が近づくにつれ、二組の合唱はどんどんいいものへと変わっていった。最初は全くできていなかった表情を付け、強弱を付けることも、できるようになり、どのクラスよりも練習時間は短かったものの、どのクラスよりもいい合唱をできている自信があった。
 文化祭前日、私はなぜか全然緊張していなかった。おそらく、最後の練習で今までで一番良い合唱が出来たからだろう。私は清々しい気持ちで当日を迎えた。午前中展示発表などが終わり昼休けいの時間になった。みんなで最後の練習をし、体育館に向かった。全然緊張せずに、みんな笑顔でスタンバイをした。
「二年二組は準備をしてください。」
アナウンスとともに二年二組の合唱が始まった。今までにないようなまとまりがあり、男声と女声、伴奏のメロディーが綺麗に重なり、美しいハーモニーを奏でていた。私はサビに入るにつれ、指揮も表情も大きくしていった。そうすると皆もより声をあげ表情豊かに歌っていた。私は、指揮台からの景色を忘れないだろう。合唱が終わると他のクラス、観客席からの大きな拍手があった。他のクラスの合唱が終わり、いよいよ結果発表……
「最優秀賞二年二組」
そう言われた瞬間、二年二組からの喜びの声、周りからの拍手が一気に自分の体全体に響き渡り、不思議な感覚と達成感を味わうことになった。二年二組で歌った最初で最後の「あした笑顔になあれ」を私は忘れることはないだろう。
 人は、どんなに臆病者で、挑戦することが出来なくても、達成感を味わうことができる。変わりたいと思えば変わることができる。私はそれを言い切れる。なぜなら私が変われたからだ。私はこれからたくさんのことに挑戦したい。辛くても指揮台から見た景色を思い出せば、きっと自分の弱さに負けないから。

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